サウジアラビアのプラスチック産業

山口登

早稲田大学博士キャリアセンター

1.はじめに

サウジアラビアとは、いったいどんな国でしょう?

皆さまは、サウジアラビアと聞いてどのような印象をお持ちでしょうか?
石油がたくさん出て、王様や王子様がたくさんいて、皆お金持ちで、先日国王が来日した際に、専用機から降りてくる時に、エスカレータ付きのタラップで降りてきた映像がそれを象徴している。一方、テロがあって戦争もしているし、治安も悪く怖い国。

また、先日、サウジで女性の車の運転が解禁になったと聞いたけど、女性は車の運転ができなかったのかあ、そういえば砂漠の暑い国なのに女性は黒いベールを着ていて、顔も隠して眼だけ出している服を着なければいけないし、女性が虐げられて、差別のある国。お酒も飲めなく自由のない国、お祈りを一日に何回もしなければならなくて、断食も義務という宗教の国、というイメージでしょうか。

そして、エネルギー資源を大きくサウジに依存している日本にとってはとても重要な国という認識はありますが、実態が今一つ把握できないというところが正直なところではないでしょうか。

2.サウジラビアの高分子産業の実情と今後の課題

私は、そのサウジアラビアで7年半暮らしました。
日本の総合化学会社と、時価総額200兆円ともいわれる世界最大の石油精製会社のSaudi Aramco社とのJVである、石油化学会社で2年間、その後、その石油化学会社から出てくるプラスチック原料を加工する会社を誘致して高分子の川下産業を育成するために設立された、敷地面積が240haの工業団地を管理・運営をする会社で5年半、また、その間、その工業団地に進出してくる会社の従業員を教育するプラスチック加工センター(Rabigh Plastic Technical Center:R-PTC)で、若いサウジ人の教育にも携わりました。

(1)工業団地へ進出したサウジ資本の加工会社の例

すでに稼働を始めた、加工会社の技術を紹介します。

① LLDPEストレッチフィルム製造会社

最新の加工装置:5種7層の共押出装置で、さらにエッジの安定性の確保のために5台のメインの押出機の両外側に小さい2台の押出機がついている装置。

・ここの装置の稼働率でヨーロッパの経済状況がわかる?

② PPの不織布の製造会社

不織布用PPファイバー加工装置では、1巻直径2~3mの大きな製品でありながらその単位面積当たりの重量および開孔密度の均一性が確保できる技術
・ヨーロッパにある紙おむつの大手メーカであるP&Gが査察に来たこともあります

③ PPのカップや食品トレーを最終製品までにして製造する会社

・日本の最終製品の成形加工会社との違いは?

(2)R-PTCでの高分子加工関連の実践教育

プラスチックCAEプログラムを利用したプラスチック加工時の不具合改良に関する知識をCAEシミュレーションで一通り勉強させた後、課題を与えてディスカッション。

例えば、「射出成形の際、ショートショットが起こった場合、どのような改善の手立てが考えられるか?」と聞くと、受講生が、「成形温度を上げる」、と回答。ここからがディスカッションで、「では逆に、成形温度を上げるとどのような不具合が起こる可能性があるか?」
研究開発者:成形時間が伸びて、生産性が悪くなる。
技術営業担当者:成形収縮率が大きくなって、お客さんでは、これが嫌われる。

実はこのどちらの解答もCAEプログラムには入れていませんでした。

ある時、原油や石油ガスなどの石油資源の企業などへの分配を管理しているトップのプリンスが見学に来た際、このプログラムを紹介しました。例えば、「加工温度を上げるとショートショットが改良されます」、との説明に、プリンスは、「電気代がかかるので、会社の人間は、いやがるだろうなあ」、と。

プリンスが、即座に理解してコメントしたのに驚きましたが、さらに、電気代の安いサウジのプリンスがこのような考えを持っていることにさらにびっくり。

3.サウジアラビアの宗教、文化、人々の暮らし

町で、サウジ人の友人とタクシーに乗った時、「日本には800万の神様がいる」という話を始めると、イスラム教は1神教ですので、とても興味津々で、「どんな神様がいるの?」と聞いてきます。そこで、「大きいものでは山全体に、自然の中では石や草木にも神が宿っている。

最近では、受験の神様や交通安全の神様がいる」といいます。サウジ人はさらに興味を持ち、「それではタクシーの神様もいるのか?」ここら辺になると、運転手の耳がダンボになっているのがわかります。しかし、そこは、正直に「それは聞いたことがないな」と答える。もしも、いい加減に「もちろんいる」とか「確かいるはずだ」などと答えると、信ぴょう性を疑われてしまう。

スーパーマーケットに買い物に行くと、買い物カートを押しながら、新聞に入っていたチラシを見ながら、携帯電話で奥さんに相談している(の指示を受けている)男性の姿も多くみられます。ここら辺の事情はどこかの国と一緒ですね。

それ以外にも

・サウジの主な都市を日本の各都市に例えるとどうか?
・オールドスークのサウジ人と大阪のおばちゃんの共通性
・男女別々の部屋で開かれるお酒も出ない結婚披露宴。レストランも男女別々。
・欧米留学経験者の結婚前の男女の自由恋愛観
・ザムザム水(万病に効くと言われている聖水)は、のどの不調に効くか?
・非モスリムの断食月の過ごし方 → 在サ日本人や日本人学校では・・・
・若手新卒の採用面談や社員の年度末の評価面談で・・・
などなど
さらに1.項で記載したイメージに対して、現地で暮らしてみてサウジ人目線で理解するとどうかについても感想を交えてご紹介。サウジアラビアに対する印象が変わるかも。

4.今後のサウジの進む道

ある方が、「石器時代は石がなくなったから終わったのではなく金属器の出現で役割を終えた。同じことが石化にもいえる。石油がなくなるから石化時代が終わるのではなく、新しい技術の出現で次世代に代わっていく」、と言われていました。とても印象的で示唆に富むお話です。

そういう意味でサウジアラビアも脱石油の道の模索を始めています。
そこで、皇太子主導で始まったSaudi Vision 2030を読み解きます。まずなぜこのような課題が設定されたのかを理解する、すなわち、そのことにより現在のサウジ国家の問題点が浮き彫りになります。