初学者のための真空成形、熱成形、シートフォーミング概論(続編)

伊神秀生

日本ビジネスロジスティクス株式会社

6. シートフォーミング(シート成形)

6.1 シートフォーミングの定義と成形例

シートフォーミング(sheet forming)は、シート状の素材を使って、平たく薄い製品を作る方法である。 国内有数のプラスチック工業辞典から用語解説を紹介する。

「sheet forming シート成形 シートの二次成形.→thermoforming」(小川伸:英和プラスチック工業辞典、工業調査会)

「シートフォーミング[sheet forming] 熱可塑性プラスチックシートを軟化点まで加熱したのち,外力を加えて成形する方法をいう.方法を大別すると①マッチドモール法②真空成形法③プレッシャーフォーミング④フリードローイング法がある.①は雄雌両型,②,③は雄型または雌型の何れかを用い.④では型を使用しない.」(ポリマー辞典編集委員会:ポリマー辞典、大成社)

他の辞典(例えばWhittington’s dictionary of plastics,1968)においても「Sheet forming. See Thermoforming」であり、熱成形と同じ成形であることを記している。

その後の『Plastics Engineering Handbook of the Society of the Plastics Industry, Inc. Fifth Edition, Edited by Michael L. Berins, 1991』においても、まったく同様の記述となっている。

“sheet forming”の定義は半世紀以上前に米国にて明確にされた。この定義部分を紹介する。

「sheet forming―

DEFINITION

Sheet forming consists of heating a thermoplastic sheet to its softening point and pressing the hot and pliable sheet against the contours of mold. The required is supplied either mechanically, hydraulically, pneumatically, or by vacuum. The formed sheet is removed from the mold after cooling.」(Processing of thermoplastic materials, 1959)

このように、“シートフォーミング(sheet forming)”は、真空成形や熱成形の成形方法を包含している上位概念である。

厳密には、シートフォーミングはシートの素材を限定しない。このためプラスチックシート(plastic sheet)だけでなく金属シート(sheet metal)やガラス板(glass plate)も含んでいる。

定義のある原著については、拙著『プラスチックシートフォーミング -新しい技術潮流と創造的設計手法-』にて紹介している。

6.2 シートフォーミングの日本語訳“シート成形”

“シート成形”については、上に紹介した辞書から分かるように“シートフォーミング”の日本語訳である。JISには“シート成形”の訳語にて次の用語解説がある。

「シート成形容器 sheet formed container  プラスチックシートを加熱軟化させ,金型によって熱成形した容器。真空成形,圧空成形などの成形法がある。」(JIS Z 0108 包装)

現在までに“シートフォーミング”はカタカナ語として定着したが、日本語の“シート成形”は、以前から「シートの製造」という同音異義が存在し、そちらを正しいとする主張があった。この語議調査の詳細は、拙著『真空成形・熱成形・シートフォーミング -技術マニュアル-』を参照のこと。

7. 成形と成型

“成型”と“成形”の漢字の違いについては議論されることが多い。読みが「セイケイ」で同じであるために用法に混乱が生じ、プラスチック成形の発展に伴って利害関係も入り混じり今もって統一していない。

“成型”は真空成形業界で多用されているいわば“業界用語”で、“成形”は“学術用語”として学会などで認められている。筆者は産業界、学術界のいずれにも属さずユーザーの立場にいるが、この技術報告では“成形”で統一している。

(プラスチック成形加工学会では「成形」を用いることと定めている)

この語源については、拙著『プラスチックシートフォーミング -新しい技術潮流と創造的設計手法-』を参照のこと。

8. シートフォーミング(シート成形)による統一体系の有用性

真空成形や熱成形は、他のプラスチック成形(射出成形や押出など)に比べて成形法の種類に富んでいる。しかも、各々に独自の名称や略称がある。さらに同様のものにいくつもの異なる名称が付けられ、一つの業界内でさえ同音意義、異なった解釈をしていることも多い。シートフォーミング(シート成形)はこの混乱を解消し、新たな発展を期待する統一体系とすることができる。

9.おわりに

これまでシートフォーミングの技術体系について概要を述べてきた。今後は続編として具体的な成形事例を交えて紹介していきたい。