アメリカ成形業界状況(2024.02) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功技術士事務所
佐藤功
1.業界動向
1-1 全般
12月の総合指数は44と対前月で若干改善した。マクロ経済指標は改善しているので、回復期待が強くなっている。
しかし、樹脂価格は低迷が続いている。増設工場稼働、原料輸入増など値下がり要因が多く当分この状況が続くものと見られる。
1-2 個別動向
- リサイクル工場の増設が進み、リサイクル材が過剰になっており材料価格が急落している。
- リサイクル協会(APR)がPPリサイクルガイドラインを発表した。
- Baxterが廃棄輸液PVCバッグの処理法を確立した。
- Myplas USAが処理能力4万トン/年の包装フィルムのリサイクル工場をミネソタ州に設ける。
- Davis-Standardは米国内の技術者配置、部品在庫を充実させ24時間以内にスペア部品が届く体制を整える。
2.SPE自動車部品アワード詳報
先月紹介したアワードの詳報が掲載されている。高性能な複合材料を利用して軽量化、コストダウンなどに貢献したものが多い。受賞部品の概要を表1に示した。
表1 SPE自動車部品アワード2023概要
3.NPE2024情報提供計画
5月6〜10日にNPE2024が開催される。Plastics Technologyは本展の情報提供に全力をあげる。
- 3月号はプレビュー特集する。
- 4月号は会場で配布されるガイド号になる。
- 5月号は取材を通して注目技術を取り上げる。
- 6,7月さらに掘り下げた取材記事を掲載する。
- 9月号は成形装置の特集を行う。
- 10月号材料を特集する。
- ネットマガジン2/9〜4/26まで週刊ネットマガジンe-newsletterを配信する。
4.技術解説
4-1 水分問題再考
成形には絶乾状態の原料を使いたい。そのためには原料の水分を正確に測定する必要がある。現場では乾燥減量法が使われているが、揮発成分の影響を受け精度は高くない。信頼性の高い方法としてカールフィッシャー法があるが、習熟しないと活用できない。揮発成分の影響を避ける方法として生石灰法も知られている。
Brookfield Ametekの湿度センサーVapor Pro XLを使う方法はカールフィッシャー法の結果と高い相関がある。Novatecは誘電特性による方法を開発し、インライン連続計測が可能にした。
それぞれ特徴があり、使い分けることが必要だ。例えばポリエステル中にはカールフィッシャー法の測定を阻害する成分が含まれていることがある。
4-2 生産性の高い射出成形用スクリュー
射出成形用スクリューに要求されていることは可塑化の安定性と溶融材料の均一性だ。また、長時間運転すると溝底で劣化が起き黒点が発生することがある。このような場合、バリアスクリューが勧められることがあるが、解決できないこともある。
溶融材料の均一性を重視したスクリューが開発された。長時間運転で色むら不良減少、良品率の向上が確認できた。詳細は来月号で紹介される。
4-3 押出成形の冷却
押出成形では可塑化能力より冷却能力が生産能力のネックになる場合が増えている。冷却固化工程は溶融樹脂の熱を冷却水へ伝熱する。
冷却工程を解析するにはまず除去必要な熱量を知る必要がある。溶融樹脂と製品の温度が分かれば材料の比熱、潜熱から求めることが出来る。これをチラーまたは冷却水で除去する必要がある。
冷却水流は乱流である必要があり、レイノズル数を算出して確かめる。必要なレイノルズ数を確保するためには流路を狭めて流速を上げることが行われる。タンクなどではジェット流、バブラー、バッフルなどによって境膜破壊を行う。
4-4 ブロー成形の色替え
色替えは、成形機内の材料を出来るだけ減らしてから停める、スクリューチェンジャーを外してからパージを行う、などの共通ノウハウがある。
具体的なやり方ではすべてに共通する最適解があるわけではない。
このため、
・成形を停めるか続けるか、
・分解掃除をするかしないか、
・未着色剤、パージ剤を使うか、
などの組み合わせでいろんな方式が採られている。どの方法でも実情に合わせて小さな工夫を積み重ね、最適化を進めることが重要だ。
溝付きバレル、液状着色剤、ミキシングゾーンのあるスクリューなどは色替え時間が長くなる。顔料によって残りやすさが違う。ある種のコーティングは色交換を促進する。当然ながらダイス構造は色替え性能を大きく作用する。このような状況なので、機械メーカー、材料メーカーなどとの協力が重要だ。
4-5 PHAとPLA複合フィルム
PHAメーカーCJ BiomaterialsはPLA混錬用のグレードを発売している。添加により、生分解性の促進、物性改良が出来る。
CA1270PはPLAとブレンドしても透明で柔軟性を付与することが出来るので食品包装に適している。また、CA1240PFはフィラーが添加されており不透明になるが引き裂き伝播抵抗、穿刺靭性、引張伸びなどが改善されるので、重包装袋に向いている。いずれの材料も既存のインフレ設備で製膜可能だ。
5.ケースステディ
5-1 繊維強化材料の環境対応
繊維強化材料の活用が増えているがリサイクルが進んでいない。Oak Ridge National Laboratoryでは2つの方向でリサイクルを推進しようとしている。
第一は粉砕して再利用する技術の開発だ。このため風力発電ブレードのような大型の廃棄物にも対応できる粉砕機が開発された。
もう一つは材料自体を再生可能材料、生分解性材料に置き換えることだ。このため強化材有機繊維に代替することを進めている。
5-2 Freeform Injectionによる医療機器部品の試作
医療機器の開発には形状の異なる多くの試作品が必要だ。これに応えるため、SPT VileconはNexa3Dの freeform injection molding technology (FIM)を活用している。このシステムではxMOLDと称する特殊な材料で金型を3Dプリントで成形する。これに通常の射出成形によって、樹脂を充填する。充填された金型はxWASH-FIMなる装置に入れ、金型を溶解し成形品を取り出す。
5-3 多層フィルム事業
Hamilton Plasticsは最大9層までの共押出インフレフィルムを製膜できる。主力はLLDPEだがUHMWPEにも対応できる。安価な材料で強度、ガスバリア性能の高いフィルムを供給している。最近はフッ素系フィルムの代替にも成功(PFASフリー)した。開発力、行動力、配送網のレベルで差別化し、食品,医療分野の包装材の供給量を伸ばしている。
6.あとがき
3Dプリンタの活用、SPEアワード受賞部品などかに新しい時代を感じる。5月にはNPE2024が開催され、重厚な情報伝達体制が予告されている。これらから世界の動きをしっかりとらえ、お伝えしたいを思っている。
今月は射出成形機のスクリュー設計論、水分測定、冷却理論など基本的な技術も取り上げられている。世界の動きに注視しながら、基本技術をしっかり押さえ現場力を向上させることもおろそかにできない。