アメリカ成形業界状況(2024.03) ―雑誌から垣間見る―
佐藤功技術士事務所
佐藤功
1.業界動向
1-2 全般
産業構造問題を抱えており、プラスチック産業が浮上することはむつかしい。材料側は設備過剰、成形側は労務費インフレで身動きが取れない状態だ。そんな中で、樹脂材料に価格が下げ止まった。これは輸送費の高騰で輸出の採算悪化、原燃料の価格上昇が主要因で、景気が良くなる予兆ではない。
今月から「プラスチック加工産業指数」の発表されなくなった。
1-2 個別動向
1-2-1 Top Shops 2024
Plastics Technology誌は射出成形業者を対象にしたオンライン調査を毎年行っている。工場管理、技術、営業戦略、人事を中心に評価される。解析結果が公表されると同時に参加各社は自社の地位、特徴を知ることが出来る。
1-2-2 PETボトル動向
Coca-colaがPETボトルにrPET製ボトルを使用し、リサイクルしやすいデザインにする。ラベルを廃止し、表示はボトルのエンボス、レーザーマーク、キャップで行う。この仕様の「スプライト」をイギリスで3月まで試験販売する(参考写真1参照)。日本Coca-colaもラベル廃止を進めている。
1-2-3 カップラーメン容器
CJ Biomaterials(韓国)がPHAラミネート紙によってラーメンカップを生分解可能した(参考写真2参照)。この方式だと日本では「紙カップ」になると思う。
1-2-4 生分解性樹脂のリサイクル
Total Energies Corbionは解重合によるPLAリサイクル技術を開発している。通常の方法では再生中に分子量が下がってしまうためだ。この方法よる材料はLCA解析によると植物由来PLAより環境負荷が小さい。
1-2-5 ケミカル/サーマルリサイクル
Total Energies は廃プラを熱分解して原料、熱源として活用する。通常は熱利用のみだが、分留して留分ごとに使い分けている。
1-2-6 ブランド整理
各種成形設備メーカーのPiovanがCIに伴うブランド整理を行った。
1-2-7 M&A
包装材用設備メーカーのKronesがNetstal を傘下に入れた。
CiTexが計測器メーカーPixargusを買収した。
Revolutionがカナダのリサイクル業者Poly Ag Recyclingを買収した。
2.NPE24関係
- Bandereは5層インフレ製膜をNPE24で実演する
- Addex はインフレ製膜機の回転ダイス制御と細分化されたエアリングの冷気流量の制御を組み合わせ、膜厚バラツキを抑える技術を出展する。
- 連続生産型の延伸ブローボトル成形機メーカーのCypetは最大1000ℓまで成形機を生産している。最近は農業用など大型ボトルにシフトしている。NPEには成形機と様々な形状、サイズの成形品を出展する。
3.技術解説
3-1 水分率測定技術
カールフィッシャー法は水分を加熱分離して定量する。加熱条件が適切でないと正しい結果が得られない。PA66の場合、加熱時間温度220℃程度、処理時間は7分以上必要だ。キャリアガスは不活性ガスが望ましい。設定温度と試料温度には偏差があるので、校正した温度を設定する。
3-2 型内圧力損失
射出成形では成形機キャビティ間に圧力損失がある。寸法やヒケを検討する時はこのことを考慮する必要がある。
3-3 混錬部付き単軸スクリュー
マドックタイプのスクリューでは先端2ピッチを混練部にしている。混練部の山を乗り越える時のせん断応力が200〜300kPa程度にする。混練部の溝が狭く、深すぎる傾向があり、溝底で劣化が起きていることがある。
4.ケースステディ
4-1 精密成形モルダー
Precision Molded Plasticsは200トン以下の小型成形機を14台保有する精密成形モルダーで、連続運転をしている。夜間の3時間は無人になる。
設備、人材、システムを経営の必須3要素と捉え、精緻化をすすめている。金型は内製しており、生産管理システムは自社開発した。成形機の電動化、成形の自動化を進めている。1万個程度の需要に焦点を当てており、自社に適したものを受注するようにしている。顧客を重視しており、納期遵守率は98.6%、過去17年でクレームは11件しか発生していない。特定顧客の依存を総売上の10%、利益の20%以下になるようにしてリスクの分散を図っている。過去に数社を買収した。仲間が引退する時事業を引き継いだもので、顧客拡大に貢献した。
4-2 射出成形工場監視システム
Windmill Plasticsは自動化が進むと現場監視がおろそかになること、スタッフ人員削減が進まないこと、に気付いた。そこで監視業務の自動化を進めた。これを集約して、日誌作成業務もなくした。さらに判断機能を加えて監視システムを完成させ、Clariprodとして外販している。安価で導入が容易だ。また、可視化機能を強化してブラックボックス化を防いでいる。
4-3 PETのボトルtoボトルリサイクル
EUでは2025年までにPETボトルへの25%以上のリサイクル材使用が義務付けられ、以降さらに引き上げられることが予定されている。
Missionはこれに対応できる技術を確立した。ポイントの第1は選別の強化だ。フレーク状態で着色物、非PET材料がほぼ完全に除去される。第2は溶融縮重合機で、rPETの粘度を調整する。
5.あとがき
Plastics Technologyもページ数が減り始めた。今月からは「産業指数」の掲載がなくなった。そんな状況で本誌はがんばっている方を取り上げ、励まし続けている。産業構造が異なるため即活用できることは少ないが、我々にない発想、あるいは飛躍のヒントが隠れているかもしれないと思う。NPEが開催を控え、様々な報道が行われている。成果を期待したい。