アメリカ成形業界状況(2024.04) ―雑誌から垣間見る―

佐藤功技術士事務所
佐藤功

1.業界情報

1-1 概要

アメリカ経済の好調が伝わってくるが、製造業への波及は小さい。2月のプラスチック加工産業指数は47と低調なことは変わりないが、下げ幅が小さくなった。原料樹脂の需給ギャップは埋まっていないが各材料ともわずかだが値上がりしている。これは原油価格高騰の転嫁によるものだ。そんな中で、PEは輸出を増やし流通在庫を減らそうとしている。

1-2 個別企業の動き

  • Mantleは金型に使える3Dプリントと切削を組み合わせた技術をNPEに出展する。
  • ポリプラスチックスとSelex Moters(ベトナム)は電動バイク用のPBT製のバッテリーカバーを共同開発した。
  • フランスCarbios製のPLA用生分解促進添加材がFDA食品包装用としてFDAに認められた。
  • Plant Switchは昨年生分解性プラスチックを生産開始した。現在増設中で、2025年には生産能力が5,000t/yになる。

2.NPE2024

本号はNPE24プレビュー特集が組まれている。

2-1 概要

今回はPlastics Sustainability Showと呼称されているように、環境問題が主題になっている。会場で発生する廃棄プラスチックは100%リサイクルされる。装置各社が協力し、公認リサイクル業者Commercial Plastics Recyclingが実務を担当する。

材料関係では性能を誇示するだけでなく、持続可能を追求する行動に適応した材料であることをうたっている。植物由来、生分解性の材料、添加剤はもちろんだが、効率よく、安全なリサイクルが安定して繰り返すことが出来るとアピールしている。また、複合フィルムのモノマテリアル化、添加剤の非PFAS化など個別テーマの提案も行われる。

自動車大変革への対応技術の出展多い。具体的には下項のようなテーマだ。

  • EV化:電池は極めて重く、発火の危険がある。軽量化による燃費改善、航続距離延伸効果が大きいため、一層の軽量化が求められる。電池ケースの難燃化が重要になる。さらにはエンジンルームが不要になるためこのスペースをトランクルームにする例が増えている。これを「Frunk」と称し一体成形したものがSPEアワードを獲得した。
  • スイッチレス化:タッチセンサー化が進み、スイッチ類が消え、内装各部に隠れてしまう。
  • リサイクル対応:リサイクル材、リサイクル可能材の使用が増加している。
  • バイオベース材料化:強化材、添加剤を含め脱化石資源化が進んでいる
  • vegan leather:動物愛護の立場から、内装に皮革の使用を回避する動きがある。

その他、人工知能、機械学習などの成果も注目される。これは労働力不足、人材不足への対処策でもある。

2-2 部門動向

2-2-1 射出成形

時代の要請を反映して省エネなど環境配慮が前面に出ている。工程のスリム化、生産性向上を目指す提案も多い。また生物由来材料、再生材の活用技術も多く出展予定。射出成形機各社の出展テーマをまとめると下表のようになる。

表1 NPE2024射出機出展予定(順不同、取材出来たメーカーのみ)

注)HPRTM:連続繊維強化成形
E=電動、HV=ハイブリッド

2-2-2 押出成形

易リサイクル化を目指したオールオレフィン包装フィルム、省エネ、再生材活用技術、PFAS対策、などが主なテーマだ。生分解性樹脂は温度に敏感なため、低せん断力可塑化技術の提案がある。またリサイクル材は粘度範囲が広いため、これに対応したスクリュー、夾雑物ろ過のためのスクリーン技術も出展される。

W&Hは品番切り替え自動化によるロスタイム短縮、労働力不足対応を提案している。Krauss Maffeiは輸液チューブをリサイクルして二色成形に活用した例を紹介する。

2-2-3 ブロー成形

環境対応から、中間層にリサイクル材を使った多層化容器の要請が高い。このためのブロー成形、延伸ブロー成形技術の展示が行われる。ブロー成形でも省エネのために電動化が進んでいる。省スペース、自動化の提案ある。

PETボトルでは薄肉化、折り畳み可能容器、ハンドル付き容器などのデザイン提案行われる。

3.技術解説

3-1 バレル温度の溶融への関与

極小型機以外の押出機は溶融熱のほとんどが溶融樹脂のせん断発熱によって供給される。バレルから供給される熱は最初に材料を溶融するのに使われるにすぎない。溶融すると材料の流動によって熱の伝搬が促進される。このため、溶融樹脂温度はバレル温度を変更してもほとんど変わらない。変更したい場合はスクリュー先端圧力で調整すべきだ。

3-2 3プレート金型の設計法

ストリッパープレートは取出し面が完全に開いた後に動く。このためには様々な方式がある。それぞれの特徴を理解した上、金型構造や成形法に合ったものを選ぶことが大切だ。

3-3 二軸押出混練条件設定法

混錬では分散混合と分配混合が同時に行われる。カーボンブラックのような凝集しやすいフィラーでは分散混合を先行させて凝集をほぐした後で分配工合をする必要がある。これはスクリュー構成で調整する。

3-4 二軸押出の圧力管理

二軸押出では混錬・脱気・反応などが行われる。出来るだけ多くの圧力計を設け、好ましい状態を作り出す必要がある。

例えば脱気時には圧力をゼロにする必要がある。また、圧力差から粘度や温度上昇が推定できる。混錬の程度はかみ合い深さに依存する。先端圧力は出口に付けるダイス、ギアポンプによって求められるレベルが異なる。

好ましい圧力プロファイルが安定して実現できれば品質を維持することが出来る。

3-5 熱硬化性樹脂

熱可塑性の材料と異なり、キャビティ内で架橋して硬化させる。硬化したものは再び溶融させることは出来ない。このため、金型充填までは温度を低く保ち、金型で加熱して架橋させる。この反応は温度と時間の関数で、高温にすれば短時間で硬化する。

3-6 ロボット作業の自動設定

Brown UniversityのGeorge Konidarisらは人不足の中でなぜロボットが普及しないかを調べた。その結果、プログラミングコストが全コストの75%を占めていることが分かった。そこで、ベンチャー企業Realtime Roboticsを立ち上げロボットの衝突回避経路を自動的に決めるソフトを開発した。このソフトには既存の作動の中で衝突回避する経路を作る場合と、スタート場所と到達場所を与え、最適経路を作成する場合がある。後者の方法で複数案作り、実際に試してみることにより、作業時間が数%短縮出来る。

フォルクスワーゲンは新ラインの立ち上げに際し、2台の溶接ロボットの作動に本ソフトを活用した。EUでは作業時間短縮に加え、消エネが重視されることもある。

3-7 射出成形におけるAI

CAEの計算は人が指示したとおりに行われる。AIでは課題を与えると、人間と同じように論理の組み立て問題解決策を編み出す。論理は今まで獲得してきた知識や経験のデータベースを活用して構築される。機械学習では過去の知識や経験をコンピュータが自ら探し出し、課題の構造や背景にある論理を自ら蓄積していく。このようなアプローチをすると、人が気付かなかったり、考え付かなかったりした解決法が出てくる可能性が出てくる。

ディープラーンニングでは複雑で緻密な論理が極めて短時間で構成することが出来る。このようなツールが使われると新しい解決アプローチが見つかる可能性がある。

いずれにせよ、コンピュータが出してきた結論は人間側の検証、実験データなどと参照して修正させていくことでさらに精度を上げることになる。

3-8 パージ剤の活用

循環社会実現には再生材活用が必須だ。再生材は夾雑物割合が高く、バラツキが大きい。しかし、成形の安定と品質の確保は必須だ。このため、成形機の分解掃除頻度を高くしなければならない。この時、パージ剤が有力なツールになり、分解作業の頻度を下げ、作業を簡略化することができる。

また、「予防的清掃」も有効だ。分解掃除が必要になる前に定期的にパージ剤を流せば分解掃除頻度を大幅に延ばすことが出来る。

4.ケーススタディ

4-1 エンプラ混錬業者

Polymer Resources Ltd.はエンプラの着色、電機業界向け難燃グレードを供給する混錬業者だ。配合決定、品質管理、ロジスティックなど材料メーカーの業務の代行も行っている。

リサイクルの要請が強まったため、設備を補強し再生材事業も推進している。廃材は産業廃棄物、製品廃棄物を問わない。再生材は検査され、バージン材と同等であることを確認している。すでにPCではリサイクル率50%の材料4グレードを標準化している。今後も技術指向、スピード、顧客指向を強化し、循環社会の実現に貢献していく。

4-2 コロナワクチン注射器供給

Retractable Technologiesはコロナ禍時に5億本の注射器を供給した。このためにクリーンルームの増床と成形機の大増設を行った。成形機はすべてPressure Pilot付きArburgにした。注射器は高度な寸法制御が必要で、同社の工程能力(Cp)ギリギリだった。Pressure Pilotは工程安定能力が高く、何とか量産をこなすことが出来た。

5.あとがき

NPE2024開催が近づいてきた。ポストコロナ最初の言うこともあり、期待が大きい。一般記事も刺激されたようで、AIとかロボットプラグラミングのような新しいテーマが取り上げられている。編集の革新も期待できそうだ。皆様の新しい動きのきっかけになってほしい。

 

3月号へ