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高輝度メタリック原着ナノコンポジットナイロン

祢宜行成
ユニチカ株式会社 樹脂事業部

1.はじめに

一般に物質をナノレベルに分散させことは技術的に難しく、特に無機フィラーをポリマーにナノ分散させて量産、販売をしている例はまだそれほど多くない。ユニチカ株式会社では、エンプラの一つであるナイロン6に無機フィラーとしてのクレイをナノ分散させる技術を確立し、ナノコンポジットナイロン「NANOCON®」として年間数千トン規模の生産を行っている。

NANOCONは強化ナイロンとしての特長に加えて優れた外観性を有しており、特にアルミなどの光輝顔料の発色性がよく、無色のナチュラル色を有しているため様々な色調への展開が可能である(図1)。本稿では、NANOCONの特長とこれを用いた高輝度メタリック原着材料の開発について紹介する。

図1 メタリック原着ナノコンポジットナイロン プレート外観

2.NANOCONの特長

NANOCONはナイロン6のモノマーであるε-カプロラクタムとクレイ(層状シリケート)を混在させた重合工程で作製される。クレイとしては層状シリケート(層状珪酸塩)が適している。この方法は、シリケートの層間イオンがモノマーとインターカレーションし、その層間で重合を進めることでシリケートの1層1層の距離が広がってバラバラにさせるという、ポリマーの合成とフィラーのナノサイズ化が同時に達成される非常に効率的な生産方法である。シリケート1層の厚みは1nmであり、NANOCONはこの微細なフィラーがナイロン6中に分散したナノコンポジット材料である(図2)。

図2 NANOCONモルフォロジーのイメージ

NANOCONの特長は、従来の複合材料と比較して少量のフィラー配合にもかかわらず機械的物性の高く、さらにガスバリア性、外観特性、成形性などに優れた性能を発現するところにある。これはフィラーが微細であり比表面積が大きいことと、ポリマー分子とのフィラーの相互作用によるもので、ナノコンポジット化の効果が顕著に現れている。

表1にNANOCONの代表グレードM1030DHを非強化ナイロン6と比較した物性を示す。NANOCONは密度が標準ナイロンと同等でありながら、強度、弾性率、耐熱性、寸法安定性(線膨張係数)が顕著に向上している。M1030DHの曲げ弾性率を従来の強化材で達成するためには、タルクで20%程度、あるいはガラス繊維で15~20%を配合する必要があり、その場合は密度が大きくなることはもちろんのこと、図3に示すように表面外観にも悪影響となることは明らかである。成形材料としてのNANOCONの性能バランスは非常に優れていることがわかる。

表1 NANOCONの物性

図3 NANOCONと従来複合材料の表面光沢度

また、成形加工性の特長として、低せん断速度領域で溶融粘度が増大するため、射出成形でバリが出ないという点が挙げられる。図4にせん断速度を変化させた時の溶融粘度を示す。非強化ナイロン6とNANOCONを比較すると、高せん断速度領域では両者の溶融粘度は似通っているが、低せん断速度領域では、NANOCONのみ著しく増大している。この挙動は射出成形において、大きなV8エンジンのカバーを成形できるほど良流動でありながらPL部分で樹脂が漏れにくくバリが発生しないという現象として現れている。

図4 溶融粘度

リサイクル使用したときの物性低下が小さいことも優れた加工特性である。図5に100%リサイクルした時の引張強度の変化を示す。フィラーが非常に小さいナノコンポジットの場合は、強化材が折れたり壊れたりすることがなく、何回リサイクルしても高分子が劣化しない限り強度は低下しない。リサイクルを5回繰り返してもほとんど劣化は見られず、NANOCONはリサイクルがしやすいといえる。

図5 リサイクル回数と引張強度

3.高輝度メタリック現着材の開発

VOC対策や軽量化、コストダウンを目的として塗装レス化が推進され、メタリック調塗装においても、その要望が高い。ユニチカではNANOCONの優れた表面外観を活かし、独自のコンパウンド技術で顔料を配合したメタリック原着樹脂を開発、提供している。NANOCONでは前述のように、剛性、耐熱性、成形性、耐薬品性にも優れていることから、汎用プラスチックでは達成できない機能性と外観を両立した成形品を、非塗装で得ることが可能となっている。

メタリック原着NANOCONの発色の鮮やかさは各方面で好評をいただいているが、これはナノサイズに分散したフィラーの効果であると考えられる。NANOCON、非強化ナイロン6およびポリプロピレンを同様にメタリック着色し、射出成形したプレートの反射強度を積分球で測定したところ、NANOCONは他に比べて高い反射強度を示すことが分かった。さらにNANOCONは各波長での反射強度の変化量が小さいため、色によらず高い発色性を示す(表2)。

表2 現着メタリック成形プレートの反射強度

図6には変角光度計の測定結果を示した。NANOCONは非強化ナイロン6に比べて、反射強度の反射角度依存性(フリップフロップ)が高く、よりメタリック感が強く見えることがわかる。

ナノコンポジット化していることで、反射強度とフリップフロップ性が向上していることは興味深い。フィラーは高輝顔料への入射光およびそこからの反射光を阻害することなく、さらに、反射を増幅させるような効果を発揮していると推測される。フィラーの添加量に依存せず高い反射強度を保持していることは、剛性や耐熱性などの物性とメタリック外観を高いレベルで両立できるというメリットといえるだろう。

図6 メタリック原着材の相対反射強度

  ※相対反射強度=反射角度35°を基準とした

4.メタリック現着材の用途例

図7~10は自動車分野での用途例である。いずれも人の手が触れる部品であるため、化粧品類、汗などに対する耐薬品性が求められ、ナイロン6からなるNANOCONはこれらに対して十分な耐性を有している。内装部材に必要な耐光性も有しており、写真のようなシルバー色では、キセノンウェザーメーター(BPT=89℃)で放射露光量150MJ/m2の促進耐候性試験実施後のΔEが3以下である。

図7 自動車シフト部品

図8 自動車シフト部品

図9はインナーハンドルで、NANOCONの強度、剛性を生かせる部品として展開を図っている。

図9 インナーハンドル

ドアパネル部品の例では、耐光性と耐熱変色性を高レベルで両立したカスタマイズタイプを開発し採用されている。また、全長300mmの比較的大きな製品であり、NANOCONの良流動性が生かされている。

図10は異型押出し成形品である。前述の図3の溶融粘度特性の通り、NANOCONは低せん断域では溶融粘度が高いため、押出し成形が可能である。この方法でも優れたメタリック発色を示しており、サッシ部品、引出取手やモールなどへの提案を進めている。

図10 異型押出し成形品

異型押出しのほかにも、シートやフィルム(図11)への加工も可能で加飾素材としての応用も期待できる。

図11 フィルム

図12は化粧品容器、文房具、コスメ商品に向けたパール調の見本である。このような淡い色合いの着色も可能となっている。

図12 パール調見本プレート

5.今後の展開

NANOCONはナノサイズのフィラーにより、軽量ながら強度や耐熱性に優れたポリマーである。意匠性にも優れ、メタリック発色性が優れているという新しい特性が明らかになり、塗装レス・メッキレスの要望に対応し採用を伸ばしつつある。今後も、自動車分野に限らず、様々な製品の塗装レス化の一躍を担えるよう、開発を進めていきたい。

ここに掲載した色調以外にも、要望に応じた調色のカスタマイズ対応も行っている。ぜひ「NANOCONメタリック」を体感いただきたい。

plastics-japan

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