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書評「プラスチックの逆襲」デザイン塾監修(丸善プラネット)

秋元英郎
秋元技術士事務所

逆襲とはいかにも物騒なタイトルであるが、読み進めると納得・共感できるところが非常に多い。何に対して逆襲するのかと言うと、プラスチックに対して植え付けられたネガティブなイメージである。著者の一人である松岡氏が自動車メーカーに就職した教え子から聞いた「プラスチッキー」という言葉(プロローグ)はその象徴であろう。

プラスチックは人類が初めて造り出した人工の素材であり、夢を運ぶはずであったが、大量生産しないと巨額な設備投資を回収できないという宿命から、完成度が低く見栄えが良くない製品が世の中に溢れたからである(第1章)。

私自身がプラスチック成形・加飾技術のコンサルタントとして、製品を完璧な美しさに仕上げることの困難さを痛感しているが、その基準がエンジニアとデザイナーでは相当な開きがあると感じた。

プラスチックが登場して間もないころには、旧来素材の模倣からスタートしていたが、やがてプラスチックという新しい材料の特性を活かした新たな製品形態の模索へとシフトしている。模倣の段階では、形状のみならず見栄えも模倣しようとされたため、加飾技術が進化してきた。

著者らは加飾技術による模倣について必ずしも否定しているわけではない。デザイン技術の進歩の過程では、模倣は非常に重要だと位置付けている。その上で、プラスチックの特徴を活かしたデザインに変化していくことが期待されている。

プラスチックは天然素材と比較すると均質であるため、木目や石材等に比べてある意味面白みが無い。一方で、プラスチックは均一な材料の中では硬すぎないという位置づけにある。しかも透明な素材も選択肢の中にある。このような特徴を活かすと、「なめらかな曲線を持つ製品」や「透明で美しい製品」はプラスチックらしさを活かしたねらい目である(第2章)。

本書では、魅力的なプラスチック製品に対する調査・分析から得られた「魅力因子」と「製品カテゴリー」についても科学的に解説している(第8章)。魅力因子は「光学特性」、「形状特性」、「機能特性」に大別され、それぞれがいくつかの魅力因子に分類される。

実際に製品開発の取り組みにおいてプラスチックの特性を活かしたデザインの実践例として南条装備(株)における取組が紹介されている。その中で私の専門であるヒート&クール成形技術やピアノブラックについても述べられていた。

高度に磨き上げられた金型と高転写技術であるヒート&クールを組み合わせることで、従来の加飾の概念とは違う素材の特性を引き出して美しさの表現が可能になる。現在ではヒート&クール等によって美しさを表現する技法も私が命名した「テクスチャー加飾」という名称とともに広く使われるようになっている。

プラスチックの逆襲とは、代替材料を使った模倣品としての価値が低い製品から、従来の素材では達成できない優しさと親しみやすさを持った価値ある製品への転換のことであると理解した。

 

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