岡田きよみ
あなりす
本稿では、CNFの結晶化度、大きさ、官能基、耐熱性の評価方法について解説する。
CNFの結晶性は、CNF強度を左右することから、セルロースの作成方法を検討する際や最終製品であるCNFの製品評価の際に結晶化度の測定が行われる。X線回折を用いて結晶化度の測定を行うことが多い。
図1にX線回折によるCNFの結晶化度の測定方法を示す。
結晶化度は、図1上部に示したように、「結晶ピーク面積」を「非結晶面積と結晶ピーク面積」で除算して求めるか、「結晶ピーク高さ」を「結晶ピーク高さと結晶ピーク位置のベースライン高さ」で除算して求める。
CNFのX線回折ピークの高さから結晶化度を求める方法を示したのが図1の下図である。まず「結晶ピーク高さ」から結晶化度の指標(以下、C.I.という)を求め、実際の結晶化度との検量線を作る。
次に未知試料のC.I.を測定することでCNFの結晶化度を求める。図1の下左図では、上から順に結晶化度が、0、20、40、60、80、100 % となっており、各測定値の水色矢印部分で示した結晶ピークを用いてC.I.を計算し、検量線を作成している。
CNFの大きさはナノオーダーという単位で表される。現在、ナノオーダーの測定が可能な装置は限られており、その中で、観察可能なナノオーダーの分解能を持つ装置としては、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)、走査型プローブ顕微鏡(SPM)がある。実際の測定では、汎用性の高いSEMが主に使われている。
図2はSEMとSPMを用いてCNFの大きさを測定した一例である。SEM画像では、2次元情報が得られ、SPM画像では、3次元情報が得られる。いずれの測定においても画像処理装置との接続によって、CNFの大きさを統計的に処理することが可能となり、サンプル間の比較がより鮮明となる。
CNFの長さや太さは強度に影響するため、それぞれの製品に見合ったCNFを得るためには、測定時にCNFで形状確認する。
CNFを使用する際、CNFの親水基の一部を用途に応じた官能基に置換することがある。置換した官能基の種類やエステル化した割合(置換度:DS)を評価する手法として、図3に一例を示す。
CNFの一部をエステル化したCNF(変性CNF)について、その置換度を求めるために酸塩基滴定方法を利用する。エステル官能基を加水分解して金属塩にし、反応したアルカリ量を求めることでエステル化量を計算する。その際、反応したアルカリ量を知るために、BTBなどのPH指示薬を用いて酸塩基滴定する。
① 変性CNFを秤量する。
② 変性CNFを(例えば、アルコール中に)分散する。
③ ②の溶液にPH指示薬を加える。
④ ③の溶液にアルカリ(例えば、NaOH)を加え、指示薬の変化によって反応したアルカリ量を秤量する。
⑤ 反応したアルカリ量を知ることで変性基のモル数を計算し、最初に加えた変性CNFの質量から、置換度を計算する。
CNFのエステル化の有無を、官能基の波長ピークの有無から判断することができる。また、CNFの置換度を滴定で得られた結果との相関から簡易に求める事ができ、品質管理に適している。
図4は、FT-IRによるCNFの置換度の測定方法を示している。以下、具体的な測定手順を説明する。
図4の測定では、FT-IR本体の1回反射ATR測定法を用いている。
① 測定結果を示すグラフの縦軸の設定が吸光度表示になっていない場合は、吸光度(Abs.)に変換する。
② CNFのエステル化で変化するピーク(図4では、「測定ピーク」と表示)をエステル化では変化することのないピーク(図4では、「ベースピーク」と表示)で、除算することにより、エステル化ピークの面積値を求める。
③ エステル化ピークの面積値と滴定の結果を元に検量線を作る。
④ 未知のCNFサンプルを測定して検量線から置換度を求める。
これらの装置では、含有元素の種類や量を測定でき、CNFに使用された薬剤情報や官能基情報が得られる。サンプルのcm2以上の広い面積を測定して、平均的な値が知りたい場合は、蛍光X線を用いる。蛍光X線は、操作も簡便であるため、品質管理で使用されることも多い。一方、高倍率の情報を可視化する必要があればEPMA、SEM-EDSを利用する。
元素の種類や量の情報だけではなく、さらに詳細な情報を得る必要があれば、FT-IR、MS、NMRなどの有機構造を測定する装置を併用することによって構造解析が可能となる。
元素分析装置は、酸素を混合したヘリウム気流下で、サンプルを高温加熱し、炭素をCO2、窒素をNOx、硫黄をSOx、水素をH2Oに変換した後、さらにCu存在下で加熱することで、CO2、N2、H2Oに還元し、それらのガスを定量することによって、各元素の比率を算出する。官能基の構造がわかっている場合にその官能基が重量でどれだけCNFに付加されたかを計算によって求める事ができる。数百mgのサンプルがあれば、特別な前処理は必要なく測定が可能であることから、手軽に使用可能である。
なお、図3の評価方法は、CNFの性質を改質するために加えた添加剤の種類や量の情報も得られることを付記しておく。
CNFの熱的性質を知るためには、熱質量分析(TG)が使用される。製品に使用するCNFが重量減少を起こす温度を把握しておくことは、混合樹脂との相性、製品の性質や成形時の条件を決める上で重要な要素の1つである。図5は、熱質量分析(TG)を用い、窒素雰囲気下で測定した3種類のCNFの測定例である。
CNF-stは未処理のCNF、CNF-1とCNF-2は置換した官能基が違うサンプルであり、CNFの官能基の置換による熱的性質の変化を比較した結果である。CNF-1はCNF-stよりも低い温度で重量減少を起こしている。一方、CNF-2はCNF-1とCNF-stと比べ、高温まで安定であることがわかる。このように置換官能基の種類によって、CNFの熱的性質が変化する。
CNFの評価方法とそれに使用する機器は、一般の測定・分析と同様であり、目的とする評価の内容により異なる。CNFの評価では、まず目的とするCNFの性質を測定することが重要である。本稿では、主に、代表的なCNFの性質についての測定方法を記した。
実験(室)において1つの方法で目的とする性質の測定が可能であっても、生産現場でその測定方法が適応するとは限らない。現場では、簡易かつ短時間の測定が求められる。したがって、目的とする性質を生産現場に見合った測定方法に変更するなどの工夫が必要であり、そのことを視野に入れて、個々の企業が自分達に見合った方法を試行錯誤して進めていく必要がある。
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