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セルロースナノファイバー入門(6) CNF含有樹脂の評価

岡田きよみ
あなりす

本稿では、CNFを含有した樹脂(CNF含有樹脂)の評価方法について解説する。

1. CNF含有樹脂の力学特性

CNFを含有した樹脂の力学特性評価は、図1に示すとおり、JISおよびISO規格に示されたプラスチック評価を参考にして必要な情報を測定する。強度の評価は、引張試験あるいは3点曲げ試験の結果が示される事が多い。

一例として、図1の右図に、変性CNFを10%含有したポリエチレン(PE)と変性CNFを含まないPEの引張試験結果を示した。CNFを含有する事によって、弾性率と応力は増加するが、伸び率が低下していることがわかる。

図1 力学試験のいろいろ

2. CNF含有樹脂の粘弾性

粘弾性の測定はレオメーターを用いて行う。温度・周波数による樹脂粘弾性の変化の程度を把握し、それを踏まえて樹脂の製品作成条件を決定することが重要である。また、周波数による粘弾性の測定結果について、低周波領域における粘弾性の増加を観察することにより、樹脂中でCNFがネットワーク構造を形成しているかを判断できる。
図2は、PP(ポリプロピレン)中に変性CNFを0、1、5、10、15%含有したサンプルの粘弾性測定結果を示している。樹脂中、CNFの繊維状ネットワーク構造の形成が、CNF添加量の増加とともに進行し、弾性が高くなることを示している。

図2 レオメーターでの測定例

3. CNF含有樹脂の熱特性

樹脂の融点、融解エネルギー、結晶化温度などの熱特性は、DSCを用いて測定する。図3では、PP中にCNFを0、5、15%含有したサンプルの融解ピークと結晶化ピークを示している。

融点の温度はいずれのサンプルもほぼ同一であるが、結晶化温度はCNFを含有しないサンプルとCNFを15%含有するサンプルとでは、10℃も違いがある。これまでの実験で、結晶化温度は、CNFの変性基の違いや置換度、CNFの形状によっても変化することが明らかになっている。

図3 DSCを用いたCNF含有樹脂の測定例

4. 樹脂中のCNF分散状態の測定

樹脂中におけるCNF分散の均一性やCNFの乖離性は、高品質の製品を得るための重要な要素である。樹脂中のCNFが、本来のナノというオーダーでCNFが完全に単一分散しているのであれば、分散化したCFNを可視できる分析装置は、空間分解能から考えると非常に限られたものとなる。

しかし実際には、樹脂中のCNFが完全に単一分散した状態のものは限らないため、下記の通り、CNFの分散状態の測定方法は複数ある。

4.1 光学顕微鏡(図4左上)

CNF含有樹脂を少量スライドガラス上にとり、カバーガラスを載せて熱板でプレスした後、光学顕微鏡で観察する。

図4の左上に観察図を示した。変性CNFの方が未変性CNFより、PPに対しての分散性が高いことがわかる。未変性CNF部分があれば、光学顕微鏡を用いて変性CNFと比較することにより、CNFの状態を確認できる。

図4 CNFの樹脂中での分散測定例

4.2 X線CT(図4右上)

高分解能のX線CTを用いた測定も可能である。分解能は数10μmであるため、輝点が画像に移らなければ非常に分散がよいと判断できる。また、CNFのフロック状の塊などの確認も可能である。さらに、数mm角の3次元での樹脂中の様子が把握可能である。

図4の右上はX線CT測定結果を示しており、CNF含有作成樹脂の混練手順が変わればCNFがフロック状になることがわかる。

4.3 透過電子顕微鏡(図4左下)

透過電子顕微鏡の空間分解能は、高いため、樹脂中のナノオーダーのCNFそのものが観察可能である。四酸化オスミウムなどでCNF含有樹脂を染色した後、ミクロトームで薄片を作成し観察する。

図4左下は透過電子顕微鏡での観察図である。この図では、PP中のCNFは、ナノオーダーに分散はしていない。分散促進のために使用された解離促進成分がCNFに十分作用せず、凝集している様子が観察される。

4.4 FT-IR(図4右下)

FT-IRのイメージング法を用いてPP樹脂中のCNFの分散状態を示したのが図4の右下である。この測定は、ATRイメージング法を使用しており、数μmまでのCNFが観察できる。図4では、測定データからセルロースピークを選択して、強度分布を表示した。

FT-IRを使用するメリットは、数種類の成分が混合されている場合でも、1回の測定データから各成分の分布図(分散状態)が得られ、成分間の関係性を把握できる点にある。

4.5 走査型プローブ顕微鏡(SPM/AFM)

空間分解能が高いため、CNF1本の観察が可能である。また、先端針を変更することによって、材料の粘弾性図を観察できる機能を備えた顕微鏡もあり、CNFと樹脂との界面や、CNF含有による樹脂の変化をミクロ単位で捉える事ができる。

5. CNF含有樹脂の結晶性・配向性の測定

樹脂の結晶性・配向性の測定方法と同様である。図5に測定例を複数示した。

図5 CNF含有樹脂の結晶性・配向性測定例

5.1 光学顕微鏡での結晶性評価(図5左上)

CNF含有樹脂をミクロトームで数十μmの厚さに切断し、90°偏光子を用いて観察する。図5左上では、より観察しやすくするために桃色フィルターをかけた。PPにCNFを含有させると結晶が細かくなることが観察できる。

5.2 X線回折での結晶性評価(図5右上)

X線回折では、結晶化度や結晶成長の方向などの情報が得られる。
図5右上の例は、結晶化度を観察した結果である。0hの結果から、同一条件で成形した場合、CNFを含有させることによって、PPのα結晶;(110)(040)(130)とβ結晶;(300)を比較すると、β結晶が減少することを示している。

また、100℃で900時間経過した後に再度同サンプルを測定した結果を900hに示しているが、PP結晶の成長方向は、CNF含有量の増加に従って(040)方向に対して(110)方向の成長が遅くなっている。

5.3 FT-IRでの樹脂配向性評価(図5下)

FT-IRでは、樹脂の結晶ピークと非結晶ピークのピーク変化を捉えることで結晶性の違いがわかる。また、偏光子を用いて0°と90°のデータを取得し、二色比計算をすることで樹脂の配向状態を知ることができる。

図5下図では、FT-IR透過イメージング法を用い、同一条件で成形したCNF含有樹脂の断面表層のPP配向を示している。CNFの含有量が多くなるにつれ、表面の配向が弱くなっていることを示している。

5.4 DSCによる結晶化度の測定(図3左)

図5に示した他に使用される結晶性(結晶化度)の測定方法としては、DSCを用いたものがあり、DSCで測定した融解熱量(図3の融解ピーク参照)から100%結晶性の融解熱量の理論値を用いて結晶化度を計算する。

<まとめ>

 CNF含有樹脂の評価は、樹脂の評価測定・分析と同様に、その目的によって様々な手法がある。
 CNF含有による樹脂の性質を知ることで、必要とされる品質設計が可能となる。
 CNF含有樹脂の製造では、CNFをナノ単位で樹脂中に均一分散させることが高品質を得る1つの条件であり、それに関する技術と各段階における評価を一体的に進めることが重要となる。それぞれの段階での目的に応じた(複数の)方法により状態を測定し、それらの結果を複合的に解析することで次の製造段階へと進めていく。
 CNFの実用可能性を高めるには、実験過程や製造過程で生じた疑問を、測定や分析により1つ1つ解決していくことが不可欠である。

※ 本シリーズ、あるいは、今までの技術記載内容に関してのご質問があれば、「あなりす」にお問い合わせください。

<コンサルタントの部屋 岡田きよみ

 

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