秋元英郎
秋元技術士事務所
2020年12月2日から4日にかけて、幕張メッセ(千葉県千葉市)において第11回高機能素材Week(主催:リード・エグジビションジャパン(株))が開催された。同展は第9回高機能プラスチック展、第3回高機能塗料展、第11回高機能フィルム展などから構成されていたプラスチック、塗料、フィルムの総合展示会である。来場者数は3日間で約18,000名(併設の展示会分を含む)であった。コロナ禍にあってはまずまずの出足であった。
今回は、プラスチック、コーティング、フィルム等のプラスチックとプラスチック成形加工に関係性が深い展示を中心に視察した。本稿ではプラスチック材料、塗料・塗装システム、加工機械・加工システム、機能フィルムを中心に報告する。
プラスチック材料メーカーの出展が非常に少なく残念であったが、出展していたブースからエンプラ系、バイオマス系材料・生分解性プラスチックから選んで報告する。
ポリアミド系およびPBTの外観に優れる材料を複数展示していた(図1)。
「Ultramid Deep Gloss」は転写性・耐薬品性に優れた漆ブラック材料であり、ヒート&クール不要で高品質な表面が得られる。高外観ガラス繊維補強PA「Ultramid SI」はガラス入りとしては非常に優れた転写性を示し、ガラス繊維の浮きもほとんど見られない。ピアノブラック調PBT「Ultradur High Gloss」は非晶性樹脂に比べて優れた流動性を持ちながら外観品質・耐薬品性を持った材料である。
株式会社中野製作所の「ラジカルロック製法」によりポリアミドフィルムにシリコーンゴムを接合成形した「R-COMPO」を展示していた。「ラジカルロック製法」はダイセルエボニックの「K&K技術」がベースになっており、現在360㎜角の大きさまで生産可能である。図2はR-compoの使用例であるスイッチシートとスポーツシューズである。
複合化技術として着色したガラス織布をインサートして透明ポリアミド「トロガミド」と複合化したサンプル(図3)が展示されていた。強度とデザインの両方の特長を持っているので、応用が期待される。
ポリメタクリルアミドの発泡体「ロハセル」を三次元曲面上に貼るために開発された「コアフレーク転写シート」が展示されていた。「ロハセル」のスライスを片面粘着フィルム上に配列したものである(図4)。
同社は中国から化学品を輸入している商社であり、生分解性プラスチックに注力している。海洋プラスチックごみ問題がクローズアップされてきているが、生分解性プラスチックの代表であるポリ乳酸が海洋中で極めて分解しにくいことはまだあまり知られていない。同社の販売品目の中には海洋生分解性を持つものも含まれている。表1は同社の配布資料に記載の表である。
表1 ハイケム株式会社の生分解性プラスチック群
セルロースを原料としたプラスチック「NeCycle」の成形品を展示していた。着色性に優れる材料であり、成形性はABSに似ているため使用するハードルは低い。生分解性があることも分かっているが、長く使う製品に採用してほしいので、積極的に生分解性をPRしていない。今回の展示品はカラーバリエーション(図5)、漆ブラックをベースにした蒔絵調加飾品(図6)等が目立っていた。
セルロースナノファイバー「nanoforest」のゴム改質用途に取り組んでいる。靴底のゴムに添加することで摩耗量が減ることが確認されている。図7は展示サンプル、図8は説明パネルである。
同社は特に黒にこだわっており、機能性の黒をPRしていた。特にUV硬化できる黒に力を入れていた。
通常の艶消しに比べて圧倒的に反射が少ない無反射黒(図10)やリアルな素材感を模倣(鉄さび、南部鉄、モルフォ蝶、デニム、レザー、ヌバック等)した塗装のサンプル(図11)を展示していた。
メタリック塗料のラインナップとして1コート1ベイクの高輝度で耐薬品性を持つメタリック塗料「ASS5000」の塗装サンプルを展示していた。コストダウンタイプではあるものの、コートおよびベイク数が多い高性能タイプに比べても大きく性能が下回るわけではなく、汎用タイプとして展開を始めている。
アルミニウムのフレークを使い、ポリッシャーによりフレークを平面上に並べる金属調塗装方法である(動画参照)。銀の粒子を使うよりも黒変しにくい。ポリッシュ後は余分な成分をふき取り、一晩硬化させる。トップコートは必要である。
今回は射出成形機の展示は無く、二軸押出機「TEM」と高せん断押出機が展示されていた。
TEMの利用例としては、大王製紙株式会社のCNF(セルロースナノファイバー)を複合化した樹脂、石灰石の粉をブレンドした樹脂が展示されていた。同社の高濃度フィラー添加技術が活用されている。図13は配布資料から
高せん断押出機(連続式高せん断加工機)は3台構成になっており、それぞれの押出ユニットが可塑化、混錬、押出の役割を担う。サンプルとしてはPC/PMMAの透明混合物(分散粒子径が可視光の波長よりも小さくなる)とリサイクルされた炭素繊維を60%添加した複合材料が展示されていた。
2018年6月にセイコーエプソン株式会社の完全子会社になったことで、販売戦略が修正され、材料メーカーの試験機から量産用成形機にシフトしてきている。そのため、安全性を考慮して製品をリニューアルし、2020年8月に「PRECISION FORMER」として販売開始した(図14)。安全カバー等が追加されて価格は従来品よりやや上がっている。セイコーエプソン株式会社では実際に量産に使っている。
同社はエレクトロニクス分野を中心に主に精密部品の成形を行っている。今回の展示は金属と樹脂のインサート成形による接合技術であり、相手の金属によって複数の表面処理手法を持っている。展示では強度と密封性が要求される防水コネクターで気密試験を行っていた(図15)。
また、2021年春に投入予定のレーザーと高周波加熱を組み合わせた接合装置もパネル展示されていた(図16)。
ブースの説明担当者より、金属と樹脂の接合に関する資料を入手した。金属表面をプラズマシーリングテクノロジー工法(PST)でプラズマポリマーコート(モノマー存在下でプラズマ処理する)を行うことにより樹脂との接合面が強固になり、金属と樹脂の境界面に水が浸入することを防ぐことができる。
ブースの説明担当者から、包装分野における超音波溶着の活用について、特にヒートシールとの違いについて聴取した。
ヒートシールに比べて優れる点は以下の通りである。
夾雑物シール性に優れる、高速充填が可能である、消費エネルギーが圧倒的に小さい、高温部が無いため、設備メンテナンス時の時間的なロスが無い、ショットごとのデータ(エネルギー吸収、シール時の沈み込み等)のデータが残せる
図18には配布資料から他のプロセスとの比較の図を示す。
湿式微粒化装置「STAR BURST」を展示していた。この装置はセルロースナノファイバーの製造にも使われる装置である。この装置の特徴は加圧した液体を衝突させることで液体に分散させていた粒子を微細化するプロセスにある(図19)。今回は卓上タイプの「STAR BURST MINIMO」を展示していた(図20)。
同社の微細化技術を利用した製品としてバイオマスナノファイバー「BiNFi-s」のサンプルを展示していた。バイオマスとしてはセルロース、キチン、キトサン等が検討されている。複合体としては天然ゴムとの複合体、銀ナノ粒子との複合体が展示されていた。
図21の写真はセルロースマイクロファイバー(CMF)とPPの複合体、およびその成形品である。
同社は金属加工からスタートして、プラスチックの押出成形に事業を拡大し、金属インサート押出成形を強みにしている。インサートする金属も自社で加工しているが、スリットと延伸により梯子状の形状に加工してアンカー効果が得られやすくなっている。図22にインサート金属とインサート成形の製品の写真を示す。
良触感(起毛形状)シート「ノーブルタクト」は押出成形時にロールに深く刻んだ突起を転写して製造する起毛状のエラストマーシートであり、光透過性・熱成形性(例えばTOM工法)・印刷が可能である。その特長を生かして自動車内装材に開発中である。裏面に印刷することで触感に影響せずにカラーバリエーションの展開が可能になる。図23は展示サンプルの一つであり、消灯すると表示は透けて見えなくなる。
コンセプト展示としてLCP CFRTPが展示されていた。炭素繊維(CF)とLCPフィルムを積層してセミプレグ化して熱プレスによって成形する(図24)。
開催時期は比較的人の動きが多い時期であったので、幕張メッセに足を運んだ人は多かった。本レポートでは金属と樹脂の接合に関してやや厚めに書いてみた。
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