秋元英郎(秋元技術士事務所、プラスチックス・ジャパン株式会社)
人とくるまのテクノロジー展は毎年横浜と名古屋で開催される自動車に関する技術の総合展示会(主催:公益社団法人自動車技術会)であり、横浜展は2022年5月25~27日にかけてパシフィコ横浜で開催された。今回は1日だけの視察であったため、材料を中心に取材した。
使用済みのリアランプ(アクリル樹脂)を熱分解してモノマーに戻して再びアクリル樹脂等の原料の原料に戻す取り組みを行っている(写真1)。アクリル樹脂は比較的脆いが、逆に粉砕しやすく減量して輸送する点では有利である。現在、回収したアクリル樹脂をMMAモノマーに戻し、重合してPMMAとして、リアランプカバーを試作して、ホンダと共同で検証中である。
メカニカルリサイクル(マテリアルリサイクル)としては、PCR(ポストコンシューマーリサイクル材)の活用の取り組みが展示されていた。飲料水のボトルの多くはPETであるが、ウォーターサーバー用の硬質樹脂ボトルの素材はPCである。それら、回収されたPETとPCを原料にしてPC/PETアロイとして活用を検討している(写真2)。
リサイクル材を25~50%ブレンドした環境対応型「ポストコンシューマーリサイクル」PBT樹脂が展示されたいた。使用済みの部品からPBT樹脂を回収しても再生品の品質を保証するのが課題であるが、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)のアロイ化技術を駆使して、成形性・低反り性にも優れる材料になっている。
他には、植物由来のポリアミド樹脂「レニー」も展示されていた。石油由来のモノマーとひまし油由来のセバシン酸を原料にしている。
自動車のガラスは徐々に樹脂化(特にPC)しているが、強度的にガラス繊維で補強したいケースもある。一般的にガラス繊維(GF)とポリカーボネート樹脂(PC)の屈折率に差があるためにクリアーな透明感は出にくい。写真3の模型には、屈折率を併せたGF強化PCと通常のGF強化PCの両方を使い、違いが認識できるように見せていた。
自動車の「センターインフォメーションディスプレイ用カバーレンズ」の展示では、反射防止フィルムを大型成形機を用いてフィルムインサート成形を行ったサンプルを展示していた(写真4)。ここで用いていた反射防止フィルムは低反射性・防眩性フィルムであるが、裏面にモスアイ型の反射防止フィルム(モスマイト)の活用も検討中である。
繊維強化材料として、炭素繊維SMCとガラス長繊維強化PPの成形品が展示されていた。
写真5はFMC(炭素繊維SMC)であり、Toyota GR Yarisのカーボンルーフに採用されたものである。長さ数センチメートルにカットした炭素繊維を樹脂中に分散させたシートをプレス成形によって加工する。プリプレグを用いるよりも複雑な形状に対応可能であり、加工時間は2~5分程度である。
ガラス長繊維強化PPであるファンクスターの成形品(バックドアインナー)も展示されていた。ベースのPPとして流動性に優れるものを使用することで金型転写性を向上させ、無塗装でも実用レベルの外観品質が発揮できる。見える部分でいうと、写真6の点線の間の部分が「ファンクスター」である。
植物由来のイソソルバイドを原料にしたポリカーボネート系樹脂バイオエンプラ「DURABIO」の特長は透明性、耐候性、耐傷付き性、耐衝撃性、光学特性で、さらに金型転写性に優れるために塗装不要で意匠性に優れる成形品が得られる点にある。当初は内装部品(センタークラスターまわり)が多かったが、外装部品であるフロントグリルにも採用されている(写真7)。
合成紙「ユポ」は登山用地図などに使用されているが、今回展示されていたのは開発品であって、透明性に優れるタイプであり、印刷して三次元貼り合わせ工法「TOM成形」によるサンプルである(写真8)。近年進化しているデジタル印刷と組み合わせると、多品種少量生産にも対応可能である。
コンセプトカー「AKXY2」は3つのS(Sustainability, Satisfaction, Society)をコンセプトにしたもので、自動運転を前提とした運転しない室内空間になっていた(写真9)。写真左が開いた状態、写真右が閉じた状態である。コンセプトカーに使用されている素材は、個別の紹介パネルおよびサンプル展示によってPRされていた。
ポリエチレンの型内発泡成形品(ビーズ発泡成形品)「メフ」は発泡スチロールと比較して柔軟性・擦れ音低減・繰り返し使用可能である。展示されていたサンプルは30倍発泡品と40倍発泡品である(写真10)。
PETやPBTの仲間であるが、ジオール部分の炭素数が3てあるポリプロピレンテレフタレート(PTT)の繊維を活用した製品が展示されていた(写真11)。特長は汚れにくいこと、クッション性に優れること等があり、カーマットに適している。
自動車内装材をターゲットにしたガラス繊維強化PP着色コンパウンドでソフトな感触に仕上げた材料である。北米で生産しており、将来は中国での生産も考えている。ガラス繊維を工夫することで射出成形による金型転写性(特にシボ転写性)に優れる。ガラス繊維の添加量は10~25%まで5%刻みのラインナップになっている。写真12に展示パネルと成形品を示す。
ガラス並みに低屈折で、耐熱性・耐光性に優れる透明樹脂であり、車内のディスプレイ用途を想定している。写真13は偏光板を手前に置いて、PCと比較したものである。
4月1日よりダイセル・エボニックから社名変更された。
「バスタミド」LX9050オレンジは難燃性がV-0の開発品であり電気自動車のパワーバスバー被覆材をターゲットにしている。押出成形性・曲げ加工性に優れる。
従来品はPA12/アドマー/PPの構成であったが、耐熱性と耐ストレスクラック性に問題があったため、PPをPPSに変更するとともに、PA12とPPSを接着するための共押出用接着樹脂を東レ(株)と共同開発した。会場の展示パネルは間に合わずに従来品が紹介されていたが、プレスリリースも済んでおり、資料が配られていた(写真15)。
自動車が電動化されるとフロントグリルの役割も変化するとの考えから、「Functional Front Grill」を展示していた。フロントグリルをディスプレイ化して、歩行者や他の車両とコミュニケーションをとることを想定している。素材はPCを用い、裏に多数のLEDを配置している。写真16はEV用フロントグリルの部品であり、PCの射出圧縮成形で成形されている。メタリック調で光を反射するが、レーダー信号は通す。写真17はディスプレイとして機能しているフロントグリルである。なお、非点灯時は金属調の外観になる。
PC製の印刷シートの裏面に導電性インクで回路を描き、導電性接着剤でLEDを固定した機能性シートのインサート成形品が展示されていた。写真18はインサートされたシート(左)とオーバーヘッドコンソールパネル成形品(右)である。実際には表面の加飾層、中間のPC、裏面の回路を含んだ層から成り立っており、2枚のシートをインサートした成形である。
薄くスライスした天然素材(木材や岩石等)をインサート成形したもので、成形材料にはGF強化PCが用いられている。GF添加により形状が安定する。また、背面からの光を透過するため、色と光による車内の演出が可能になる。写真19は天然木をインサートしたもので、上が非点灯、下が点灯した様子である。
その他に天然素材の見本が多く展示されていた(写真20)。写真の左と右は同じサンプルであるが、光の色を変えている。
自動車部品の例とともにカーボンニュートラルへの取り組みに関する展示が中心に据えられていた(写真21)。
自動運転が進化すると、車内ディスプレイを大画面にしてもタッチが容易になる(前方を注視しながらタッチする必要が無い)。展示されていたワイドタッチセンサー試作品は幅が1200㎜のものである(写真22)。
リサイクル技術として、リサイクルプラスチックブランド「Meguri」プラスチックのケミカルリサイクル、再生ポリプロピレン(PP)、メタクリル樹脂(PMMA)のケミカルリサイクル、木材繊維強化再生ポリプロピレンが展示されていた。写真23の左は木材繊維強化再生ポリプロピレンのペレットと成形品サンプル、右はリサイクル材を70%含む再生ポリプロピレンのペレットと成形品サンプルである。
自動車部品には面積が大きい部品が多い。これらを射出成形で生産するのが合理的かどうかは疑問を持っている。真空成形で大型部品を生産する場合、厚みむら(特に著しく薄い部分が生じる)や位置合わせ(特に印刷されたシート)に課題があった。今回は、厚み5㎜のPCシートおよびマクセル(株)が開発した発泡成形技術「Ric-Foam」によるPCの押出発泡シート(厚み3㎜、2倍発泡)をバックドア形状に成形した試作品を展示していた(写真24)。
車内に用いる大型曲面ディスプレイとしてもインサート射出成形ではなく、印刷シートと透明シートを積層したものを真空成形した試作品を展示していた(写真25)。
同社のブースではKraussMaffeiの金型内塗装技術「Colour Form」を紹介し、サンプル展示をしていた。「Colour Form」は二色成形の一種であり、樹脂の一次成形品の上に熱硬化性の塗料を注入して金型内で硬化させる技術であり、通常は金型が反転する対向レイアウトになる。写真26の左は一次成形品、右はスモーク色の透明塗料を注入硬化させたものである。
フランスに本社を置く大手自動車部品メーカーであり、日本のメーカーにも部品納入している。展示サンプルをいくつか紹介する。写真27にはヘッドランプ(左)と室内灯(右)である。ヘッドランプはアウディに搭載されている。
写真28は日産Ariyaに採用されたコンソールであり、上半分が前後にスライドする。表皮材は三次元形状に合わせて縫い合わせており、見えない部分(基材)はヘンプ繊維をブレンドしたPPを用いており、繊維強化による軽量化(15%)と天然繊維利用によるCO2排出削減(約1㎏)を実現している。
写真29はBMW iXに採用されているドアトリムである。アッパー部には輻射熱パネル暖房が仕込まれており、表皮材は合成皮革、本革、マイクロファイバー等のバリエーションがある。
ケナフ繊維のボードを利用した部品が展示されていた(写真30)。上はレクサスLS、下はレクサスUXに採用されたものである。クリップ座と形状保持のためのリブ(ランナーも兼ねている)が射出成形で接合されている。
写真31は発泡ドアトリムであるが、発泡による強度低下を補うべく、高耐衝撃材料が用いられている。この材料はPPとPA6(当初はPA11)を相溶化材を用いてサラミ構造を形成するアロイにしている。三井化学(株)に技術ライセンスしており、生産は三井化学(株)が行っている。1m2あたりの重量が1.5㎏と非常に低目付になっており、薄肉化と高発泡倍率の両方を実現していると考えられる。
ヘッドランプユニットとしてLEDを光源としたもの(日産ノート)が展示されていた(写真32)。内部はヘッドランプ、ウィンカー、車幅灯等に分かれている。
フロントグリルに加飾的な要素を取り込む例として次世代フロントパネル「e-Grille」が展示されていた(写真33)。左は非点灯、右は点灯状態である。
視察時間が十分に確保できず、網羅した報告にはなっていないが、材料を中心に報告した。名古屋展については別途報告する。
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