製品設計の「キモ」(7)~ 機能・性能・仕様の使い分け~
製品設計コンサルタント
田口技術士事務所 田口宏之
1. はじめに
設計とは、前工程からのインプット(要求事項)を、図面や仕様書などのアウトプットとして後工程へ渡す一連のプロセスのことである。設計からのアウトプットは後工程から見るとインプットとなる(図1)。
図1 設計とは
これらインプットやアウトプットとしてやり取りされる情報は、文字や図形など様々なものが含まれるが、大きく機能、性能、仕様に分類することができる。普段から何気なく使う単語であるが、設計においては意外と深い意味がある。しかも、その分類を使いこなすためには、ある程度の経験とノウハウが必要になる。
2. 機能、性能、仕様の違い
機能、性能、仕様のそれぞれの意味を表1に示す。例はプラスチック材料について記載している。
表1 機能、性能、仕様の違い
辞書の意味を見るよりも、英語や例を見た方がピンと来るかもしれない。
設計者は前工程からインプット(要求事項)を指定され、図面や仕様書をアウトプットして後工程に指定する。これらの指定が機能、性能、仕様のどれに分類されるかによって、またそれぞれの立場の違いによって、表2に示すようなメリットとデメリットがある。
表2 指定方法の違いによるメリット・デメリット
これらは典型的なトレードオフ問題であり、どちらがよいかは簡単に答えが出るものではない。ただし、一般的には以下のように説明されることが多い。
・生産委託先が自社にない高いスキルを持っていれば機能や性能で、そうではなければ、仕様で指定する。
・生産委託先へ機能や性能で指定することばかりをやっていると、自社の競争力が低下する。
・電子機器など技術の変化が早い業界へ生産委託する時には、機能や性能で指定する。
・利益が取れない下請企業は、仕様で指定されている企業であることが多い。
3. 機能、性能、仕様の使い分け事例
インプットとアウトプットのそれぞれにおける、機能、性能、仕様の使い分け事例を紹介する。
3-1 インプットにおける使い分けの事例
表3はプラスチック容器の商品企画書に記載する内容の一例である。
表3 プラスチック容器のインプットの例
規模の大きな組織では、設計者は商品企画部門から企画書を受け取る。商品企画書は機能、性能、仕様が混在して指定されているが、抽象的な概念である機能や性能で示されることが多い。
どの分類で指定するかについては、企画者にとっても表2で示したようなメリットとデメリットがある。その指定の仕方は、企画者の腕の見せ所でもある。設計者の能力を引き出しつつ、コストや納期を守れるようなインプットでなければならないからだ。
3-2 アウトプットにおける使い分けの事例
表4は成形加工メーカーに対して指定する、プラスチック材料に関する仕様書の一例である。プラスチック材料は、配合がノウハウとなっている、成形性と密接な関係があることなどから、設計者が詳細な仕様を指定できない(しない)ことが多い。
一方で、ブラックボックスである材料の配合に起因する不具合も少なくない。設計者にとっては扱いづらい材料である。
表4 プラスチック材料のアウトプット(仕様書)の例
成形加工メーカーのスキルや保有する設備は千差万別である。筆者自身、プラスチック製品の仕様書を書くときには、悩むことが多かった。プラスチック材料は、スキルのない成形加工メーカーに対して機能や性能で指定すると、それを仕様に落とし込めないことがある。また、スキルの高い成形加工メーカーに仕様で指定すると、その仕様が原因で成形不良が出たとクレームがついたり、彼らの能力を引き出せなかったりする。
成形加工メーカーのスキルやその他の状況を総合的に判断して、どのように記載するかを決めなければならないのである。
4. おわりに
国際規格は以前から仕様ではなく性能で規定されている。また、国内の法規制関連においては「仕様規定から性能規定へ」というのが流れである。建築関係の法規制は1998年の建築基準法の改正から始まり、徐々に性能規定化が進められて来た。電気用品安全法も技術基準が性能規定へ改正された(2014年)。設計者は単純にこの流れに乗ればよいわけではない。
これまで説明してきたように、機能や性能で指定することと、仕様で指定することにはそれぞれメリットとデメリットがある。それらを踏まえた上で、どのような指定方法が一番良いのかをよく考えながら、設計を進めることが重要である。製品設計のキモの一つは機能、性能、仕様をうまく使い分けることである。