次世代自動車の新規部品

安田 武夫

安田ポリマーリサーチ研究所

はじめに

EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)等の次世代自動車は、従来の内燃機関を動力源とする自動車と異なり、動力の全てまたは一部を電池に蓄えた電気によりモータで走行する。EV、HEV、PHEVは二次電池、FCVは燃料電池を主電源とする。ここでは、EV、HEV、PHEVの新規部品を先ず紹介し、その後、FCVの新規部品を紹介する。

注)ハイブリッド車は一般にHVと標記されるが、本稿では特に内燃機関と電気のハイブリッドをHEVと標記する。プラグインハイブリッドについても同様に、通常はPHVと標記されているが、本稿ではPHEVを用いる。

1. EV、HEV、PHEVの主な新規部品

代表的なものは、インバータ、モータ、PCU(パワーコントロールユニット)、LiB(リチウムイオン電池)本体、電気二重層キャパシタなどがある。

HEVやEVにおいて、モータを駆動させるために二次電池の出力を制御する部品群を示す。二次電池の電圧を650Vまで上げる昇圧コンバータ、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ、コンデンサなどで構成される。これらの部品のハウジングには、エンプラ系材料、特にPPSが、電気的性質、耐熱性、耐湿熱性等に優れていることにより使用されている。比較的大型な部品のため、PPSの使用量は数千トンと達すると言われている。

インバータは電池に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、変換する際に車速やシステム制御に必要な周波数をつくりだし、モータ回転数、駆動トルクや電力を制御し、車輛の加減速を行う部品である。

1-1 インバータ、インバータ周辺

写真1は小型EV用インバータである。ハウジングは、電気特性、耐熱性、機械的強度等のバランスの優れたPBT(あるいはPPS)と推定される。写真2は小型トラック用インバータである。同一用途であるが、大型のため、大電流下で使用することとなる。そのため、電気特性、機械的強度等に優れ、PBTより耐熱性が高いPPSがハウジングに使用されている。

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写真1 小型EV用インバータ

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写真2 小型トラック用インバータ(PPS)

ブスバー(バスバーとも呼ばれる)は、電源などで各部分や装置が共通で接続する導体棒である。ケーブルでは必要な端末処理が不要で、機器の追加接続、取り外しが容易であり、絶縁被覆がないので、放熱が良く、比較的設計高温での使用も可能になるので、大電流化に対応しやすいものである。写真3はHEVインバータ高電圧対応ブスバーである。このブスバーの絶縁材料には、電気的性質、機械的強度、耐熱性などのバランスに優れるPBTの加水分解性グレードが使用されている。

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写真3 HEVインバータ高電圧対応ブスバー(デュポン)

写真4はEV、HEVの重要部品であるインバータ冷却用電動ウォーターポンプである。耐熱水性、耐熱性、機械的強度、寸法安定性等の優れたPPSが使用されている。

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写真4 インバータ冷却用電動ウォーターポンプ(アイシン)

1-2 パワーユニット周辺

写真5はHEV用モータシステムパワーユニットである。インバータ、平滑コンデンサ、インバータ間ブスバー等を内蔵している。電気特性、機械的強度、耐熱性等が優れているPPSが各所で使用されている。

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写真5 HEV用IPU(Intelligent Power Unit)

写真6は熱を発生する部位の多いHEVの冷却用パイプで、LCPが使用されている。金属を代替したもので、耐熱性、軽量性などのメリットがある。

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写真6 HEV冷却パイプ(住友化学)

写真7はHEV用ECU、電池監視ユニット、システムメインリレーなどで構成された制御システムである。ハウジングなどにPBT、PPSなどが、電気的特性、機械的強度、耐熱性、寸法安定性等を生かして使用されている。

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写真7 HEV制御システム (デンソー)

1-3 リチウムイオン電池、リチウムイオン電池周辺

写真8はHV、EVの動力源であるリチウムイオン電池(LiB)システムである。重要な要求特性である耐アルカリ性に優れる変性PPE(PPも使用可能)が使用されている。その他、電気特性、機械的強度等に優れていることも生かしている。

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写真8 リチウムイオン(LiB)電池システム

写真9はリチウムイオン電池監視ユニットである。高精度かつ小型、低コストで、誤検出が低いLiB電圧検出ユニットである。特徴は以下の通り。

①バッテリーセル電圧の高精度検出

②ばらついたセル電圧をセル放電にて均等化

③ユニットの高絶縁耐圧設計

④検出回路の冗長化による低誤検出化

1ユニットで多くのセル電圧の測定ができ多様な車両バッテリー構成に対応可能、バッテリー検出ICの三洋により軽量化・低コスト化され、電圧誤検出の故障発生確率の低減などの効果がある。

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写真9 リチウムイオン電池監視ユニット(矢崎総業)

1-4 キャパシタ

写真10は電気二重層キャパシタ・モジュールである。電気二重層キャパシターは電気二重層という物理現象を利用することで蓄電量が著しく高められたコンデンサである。EV、HVなどでは二次電池が電力の供給源である。最近では、LiBと電気二重層キャパシタを併用する場合もある。使い方は、両者の長所、欠点を鑑みて行っている模様である。

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写真10 車載用電気二重層キャパシター・モジュール (日本ケミコン)

1-5 外部供給電源関連

写真11は外部給電器である。EV、HVの新しい機能の一つに家庭等の電力の外部給電がTVのCMで放送されている。この機器は、同社がCEATEC Japan 2015で展示した外部給電機である。金属が外殻であるが、写真の黒い部分はPPが使用されている。電気的性質や機械的強度、軽量性等を生かしたものである。この機器の内部には、EV、HEV内部の二次電池の直流の電力を家庭等で使用する交流仕様の種々の機器で使用するため、インバータ、パワーモジュール、コンデンサ等が内蔵されている。これらの内蔵機器には前述したようにPPS等のエンプラ系材料が使用されている。

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写真11 外部給電器(本田技研工業)

2. FCVの主な新規部品

水素タンク、FCスタックなどである。前者は高圧に耐える必要から、外張りにはCFRPが、後者もCFRPの使用した部品が使用されている。FCVも燃料電池を電源とするため、HEVやEVで使用される部品の一部が使用される。

2-1 燃料電池(FC)周辺

写真12はFCスタック部品である。FCスタックは電池の最小単位のセルを100枚程度、直列に積層して結合した構造体である。FCVでは通常、この構造体を数個直列にして箱型のケースに収め車両に搭載している。FCスタックにはCFRPなどが使用されているがその関連部品には、耐熱性、機械的強度、剛性などが優れたPA系材料が使用されている。

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写真12 FCスタック部品(PAなど)(トヨタ紡織)

写真13はFCVのエアバルブモジュールである。「調圧」「分流」「封止」のエア制御機能をモジュール化したことを特徴としたもので、発電時は供給されるエアを分流、調圧し、発電停止時は遮断封止する機能を持つ。部位によりPPS、PA66およびゴムが使い分けられている。

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写真13 FCVのエアバルブモジュール(アイシングループ)

2-2 水素関連部品

写真14はFCV用水素ディテクタである。トヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI」に採用された水素検知器で、2か所に搭載されている。万一、水素ガス漏れが発生した場合、直ちに検知、警告する。国土交通省は、水素ガスを燃料とする燃料電池車の基準として、水素ガス漏れ検知器の装備を定めている。ハウジングは(GF+GS)強化PBT/PCである。

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写真14 FCV用水素ディテクタ(エフアイエス)

写真12はFCVの水素制御システムである。高圧水素タンク、FCスタック、水素充填制御装置、各種センサからなり、FCVの水素充填をスムースに行なうように制御している。ハウジングは、PBTなどと推定される。

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写真15 FCVの水素制御システム(デンソー)

2-3 その他の燃料電池車用部品

写真16は電動ウォーターポンプ、写真17は冷却水制御バルブである。FCV「MIRAI」のラジエータ周りの冷却に使用されている。電動ウォーターポンプは、冷却液の循環、冷却水制御バルブは冷却水の流量制御を行っている。耐熱冷却水性等を考慮すると両者に使用される材料はPPSと推定される。

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写真16(左) 電動ウォーターポンプ、 写真17(右) 冷却水制御バルブ(デンソー)

写真18はホンダのFCVのコントロールシステムである。統合制御ユニット、FC制御ユニット、セル電圧モニターから構成されている。使用されているプラスチックは、機械的強度、電気特性、寸法安定性等の物性バランスが優れたPBTである。

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写真18 ホンダのFCVのコントロールシステム (ケーヒン)

写真19はカソード圧力調節弁である。これも、ホンダのFCVの部品である。燃料電池のカソードでの酸素圧を調整する重要な役割を持つ。ハウジングは耐熱性、耐熱水性、寸法安定性等の優れたPPSと推定される。

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写真19 カソード圧力調節弁(ケーヒン)

おわりに

本報告は、「自動車用プラスチック部品・材料の新展開2016」(シーエムシ―リサーチ)の内、出版社の了解を得て4.7「次世代自動車(EV、HEV、FCV など)の新規部品」を抜粋の上編集して独立した記事に仕立てたものである。

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