安田武夫
安田ポリマーリサーチ研究所
SAMPE Japan 先端材料技術展2019は、2019年9月4日(水)~6日(金)の3日間、パシフィコ横浜の展示ホールで洗浄総合展、高精度・難加工技術展、表面改質展、真空展と同時開催された。SAMPEの出展規模は、95社・団体 144小間(対前年比増)、会期中のSAMPE単独の来場者数は、12,041人(対前年比2000人減)であった。
CFR(T)P素材および成形品を中心に数多くの先端材料の展示が行われ、圧巻であった。本稿では、注目すべき出展をした会社の展示を取り上げ、写真と共に紹介する。
ハイブリッドバンパ、NIKEアメリカンフットボールシューズ、車いす可搬用スロープ、高強度・高成形性プリプレグなどが展示されていた。
AL押出材とCFRPの接着バンパーで、トヨタレクサスRC Fのリアバンパーの補強材である。衝突時に働く引張力に対し、CFRP材で補強している。アルミの厚さを増し、補強対比、重量増分1/5に圧縮した。自動車部品に合った速硬化プリプレグを適用した。
東レPMC社の熱可塑性ラミネートであるToray CFRT® TW-1000を使用したフットボールシューズである。このラミネートは、極薄、軽量で、多方向への動きをサポートする設計を可能とする。その結果、使用するプレーヤーが最高レベルのパフォーマンスを発揮する。マトリックス樹脂はPMMAとのことである。
C-SMC使用自動車部品、生体適合性エンプラ素材、バイオPCの成形品等が出展されていた。
C-SMCを使用した自動車部品である。この材料の特徴は、
・ハイサイクル成形:2分硬化
・汎用の油圧プレス成形機の転用が可能:
成形圧力:3~10MPa、金型温度:130~150℃
低コスト:
プリフォームが不要。複雑形状の賦形可能。部品統合によるコストが低減。廃棄材料が極めて少ない成形。成形後のトリミングが不要。金属インサートが可能である。
植物由来のバイオPCの「DURABIO」製のマツダのフロントグリルである。この材料は傷つきにくく、耐衝撃性、耐光性が優れている。また、優れた発色性があるので、成形後の塗装工程を省くことができ、意匠性にも富むため自動車の内外装材に採用されている。
低比重SMCによるClass-A外板、ハイブリッド積層板使用製品、PC-LFTなどを展示していた。
軽くて美しい低比重のSMC製自動車用外板で、以下のような特徴がある。
素材として
・軽量性:1.24g/cm3
・高外観:優れた表面平滑性
・耐久性:腐食レス、耐デント性(凹み)
・量産工程への適合:Eコート対応可能、優れた塗料密着性、ボンディング性
設計自由度、スタイリングでは
・金属プレスでは実現不可能な成形性
積層板は同一の樹脂使用の熱可塑性プリプレグや樹脂シートを組合せ、外観意匠性、厚み、物性、コストの最適化が可能。必要な積層構成に配置した積層板を使用し、打ち抜いた材料の成形加工が可能で、成形時の作業性が容易になる。特徴は、
① 3K織物の意匠性を保持し、コア層にUD材又は12K織物を積層しコストダウン
② 表層に炭素繊維シート、コア層に樹脂シートを積層し、軽量化とコストダウン
③ 表層に樹脂シート、コア層に炭素繊維シートを積層し意匠性と機械的特性の調整
同社が独自に開発したPA9Tに炭素繊維を強化した多くの複合材料(コミングルヤーン、PA9T/CF Hybrid Nonwoven Composite、PA9T繊維/CF混抄紙、PA9T繊維/CF不織布コンポジットなど)が展示されていた。
TEPEX(PP系の連続ガラス繊維シート)をPP-LFTでハイブリッド成形した自動車用アンダーカバーである。VWに採用されたもの。その他の展示では、VWに採用されたフロントエンド(素材は同様)、ブレーキペダルなどが注目された。
同社と三菱ガス化学、岐阜大学が共同研究で開発した材料である。CFRTPのためのプリプレグヤーンに相当する繊維。特徴は、
① 高い含侵特性とテキスタイル加工性を実現。
② 任意の炭素繊維含有率に製作可能
③ 任意の樹脂繊維をマトリックスとして使用可能
④ 炭素繊維の繊度も特に選ばない。
炭素繊維開繊糸に熱可塑性樹脂を含侵させたテープ。加熱・加圧、成形可能CFRTPである。プリプレグテープを製織することにより、織物での提供も可能である。
マトリックスはPA6、PA12、PA9T、PC、PPS、PEEKなどがあり、製品サイズ:幅64mm×長さ100mmが可能。
薄肉プリプレグ(UD)とチョップドシートを展示した。各製品の特徴は、
・薄肉プリプレグ:厚み40~60μmで世界最薄レベル。マトリックスはPA6、PA9T、PPS等で高強度。
・チョップドシート:三次元形状で賦形し易い。成形:プレス成形、ヒート&クール、スタンピング成形が可能で、易積層性。チョップサイズ:幅5~20mm、長さ10~40mm
同社は東レの織物製品を取り扱っていた。その技術基盤を生かして、炭素繊維の複合材料のビジネスを展開し、熱可塑性CFRPシートの開発・製造・販売を行っている。マトリックス樹脂、CF構成、積層板などを顧客からのオーダーメイドで対応している。
マトリックス樹脂:各種PA、PC、PPS、PP、PMMA等。CF:各種織物、各種UDテープ。同社の多様な製品の一部を示す。
レクサスRC-Fに搭載されている実物である。同社は反応性樹脂成形設備の専門メーカーで、同社製の注入機を使用してこの成形品を生産した。(RTM)
Chevrolet Corvette搭載のBrake Rortorである。炭素繊維(短繊維)を強化材に、マトリックスにSiCを使用している。ここで使用するSiCはStarfire社が開発した。
ベースポリマーを800℃以上で焼成し、耐熱上限は2200℃である。耐熱性、耐摩耗性が優れているためこの用途に使用された。
TAM成形によるドローン用部品、自動車部品を展示していた。
TAM成形技術(通電抵抗加熱方式のヒート&クール熱プレス成形)により成形したドローン部品である。この成形法では、一方向プリプレグ、チョップしたUDテープ、織物プリプレグ等の材料が使用可能である。CFRTPハイブリッド成形により高強度・高剛性の成形品が得られる。自動車部品も展示した。
熱可塑性シート成形用真空プレス装置による成形品を示す。同社の成形装置の特徴は、
・プレス機構だけでなく、余熱ヒーターと搬送機構を真空チェンバー内に格納
・予熱から成形まで一連の工程を真空下で処理可能(樹脂の酸化劣化を抑制)
・金型を取り外して平板ホットプレスとして使用可能(シート材の積層成形等中間材料の作成可能)
CFRPが汎用量産部材として適用されていくためには、生産性の優れた革新的製造技術が不可欠である。構造部材の製造に適した多段ロール成形装置を開発、プロセス確立を図る。
開発した技術は、ロールフォーミング工法で、連続方式で一定断面長尺部材の成形を高い生産性で行うことで、高剛性部材への展開を図る。成形品の剛性評価等も行っている。
フラットガラスファイバーを展示していた。
長円形の断面のフラットガラスファイバー使用の成形品。円形断面と比較し、成形品の反りや寸法安定性が改善される。このファイバーの特長は、
・長円形の断面のチョップドストランド
・GFRPの反りが改善される(特に結晶性樹脂)
・強度や外観品位が向上
・スマートフォンやタブレット端末の筐体への展開が期待される。
トウプリプレグ用炭素繊維を使用したトウプリプレグ(プリプレグ・炭素繊維に樹脂を含侵させた強化プラスチック形成材料)である。高剛性・高強度を生かして、トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」向け高圧水素タンクの外郭材向けに使用されている。
その他では時計バンドにCFRPを使用したG-SHOCKも展示されていた。マトリックスは柔軟性に優れたTPUと思われる。
ポリオレフィン系の熱可塑性フィルムのフィクセロン®が熱と圧によって異種材料を接着させる。特徴は、
・生産性の向上
・環境負荷の低減が期待
工法例:熱板プレス接着、射出成形、高周波接着、抵抗加熱接着
PP系の熱可塑性後架橋型フィルムである。異種材料の接着に使用できる。特徴は、
① 耐熱性・耐薬品性が高いPP系接着剤フィルム
② 流動性が高く、炭素繊維やガラス繊維、天然繊維に含侵可能
その他では、異素材への強固に接着する高耐久性接着フィルムなども注目された。
自動車の軽量性のためにGFRTP(PA6)と金属(スチール)をレーザー接合して永続的な接続を実現する。その後、この部材の金属を他の構造部材の金属と溶接などの接合により組み立て、自動車の軽量化を達成する。
その他のメーカーで注目される展示を以下に記す。
・TIP Compositeの自動車用シートなどの成形品。
・サンコロナ小田、中屋敷技研の新規CFRTP系中間素材。
・福井ファイバーテックの合成樹脂複合材
・ADEKAのの新規CFRP成形プロセス
・アドバンストテクノロジーの複合材損傷/破壊評価解析ソフトウェア。
・大阪ガスケミカルのエンプラ用流動性向上剤
などである。
また、先端材料技術協会(SAMPE Japan)がCFRPおよびCFRTPの成形法に関する解説パネルを展示していた。
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