国際会議レポート Biocomposites Conference Cologne(BCC)他

三宅 仁

アイ-コンポロジー株式会社

1.ウッド・繊維プラスチック会議

2017年12月に、ドイツ・ケルンで2年毎に開催される、ウッド・繊維プラスチック会議に参加しました。

当社は「木粉プラスチック複合材(WPC)」、それも「射出成形やシート成形ができる成形性のよい」という複合材を手掛けております。この分野はヨーロッパで進化が著しいのですが、2年前に初めて黒く色は着いているものの射出成形製品ができたということでしたので、十分太刀打ちできると踏んでいました。

今回の会議には欧州を中心に、世界から230名の参加がありましたが、日本からはたった2社の参加、展示参加に至っては当社1社だけでした。

2015年から2年経って欧州各社は各分野でいろいろな製品開発を進めています。例えば、射出成形で一体成形したスクールチェア、断熱窓枠、釘打機用の釘、はたまたクラリネットや3Dプリンタ用フィラメント等、あらゆるものがウッドプラスチックで作られていました。

また熱硬化WPCで橋構造物やボートまで手作りするといった念の入れようです。

当社の展示は日本人らしく、小さいながらも細やかな精密射出成形品や、シート成形品やそれを基にした真空成形試作品を展示しました。欧州の方々からしきりに感心され何とか面目を保ちました。

しかし、欧州各国の意気込みと技術進化には正直脱帽というしかありませんでした。

講演は、総論から各論まで大学、メーカーはたまた各国の高名な研究所から、それぞれ独自のユニークな成果が発表され、議論も活発でした。ただし、講演資料の配布はありませんでした。

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2.バイオエコノミー

今、「バイオエコノミー」という言葉をご存知の方は、どのくらいいらっしゃいますか?

かくいう私も恥ずかしながら、実は昨年まで知りませんでした。この言葉に衝撃を受けたのは、ある講演会で東京大学の五十嵐准教授のお話しを伺ったときでした。

五十嵐先生は1年に3か月はフィンランドの研究所にいらっしゃるとのことで、ヨーロッパの動向にたいへん明るい方です。

先生曰く、「2012年にヨーロッパ委員会(EC)がEU各国に“Bioeconomy”を提唱し、欧州各国は、2050年にCO2排出ゼロを目指して、それぞれマイルストーンをつくって、バイオエコノミー化計画を着々と推進している。」とのことでした。この流れで2015年末の「パリ協定」ができたことを、日本人はあまり知りません。

「バイオエコノミー」はごく簡単に言うと、「再生可能な生物資源をもとにして、食品・飼料はもとよりエネルギー・プラスチック・工業材料その他の付加価値製品に変換する、これを行うことで科学技術の進化と産業化のイノベーションを大規模に行う」ことです。

何でもかんでも循環型社会に転換しようということです。そういえば、2-3年前にBMWが発表した電気自動車“i3”の内装材にヘンプ材(欧州に多い麻の一種)が使用されていたことを思い出しました。先進的な自動車に似つかないのでアレッと思っていましたが、メルセデスにも使用されているようです。

欧州各国は幼児期から「バイオエコノミー」教育をすすめており、化石原料からの樹脂も倹約が当り前になっています。どこのスーパーでも手提げポリ袋はもちろん置いておらず、商店街の惣菜屋でも紙袋に入れておしまい、ペットボトル飲料も容器代はデポジット制、もちろん各家庭では、紙・ビン・プラの分別は当り前となっています。

このままいくと数年先には、「バイオエコノミー率」とか「バイオエコノミー認証」の規定で輸入禁止とかに、冗談でなく本当になりそうです。日本の化学業界で少し前に、RoHS指令とか、REACH規制でてんやわんやになったことの再現になりそうです。

3.ヨーロッパの本気度

昨年2017年12月17日に放送された「NHKスペシャル、“脱炭素革命”の衝撃」をご覧になった方も多いと思います。昨年11月に開催されたCOP23ボン会議の模様でしたが、日本から政府関係者や企業12社(たったの)が参加し、意気揚々と「高効率石炭火力発電システム」を抱えて乗り込んだのですが、世界各国から「何で化石燃料をいまさら。日本は環境先進国じゃなかったのか。」と本当にけちょんけちょんに批難され、気の毒に中には泣き顔になっていた方もおられました。

ヨーロッパでは前段の「バイオエコノミー」の通り、2050年のCO2排出ゼロを本気で目指して循環型社会に転換しようとしているわけで、アメリカのアマゾン、アップル、P&Gやコカコーラをはじめとした多国籍企業も、既に「バイオエコノミー」に舵を切っています。

トランプ大統領はパリ協定脱退を宣言(だけ)しましたが、ビジネス界は無視しているようです。中国も電気自動車の例のとおり、アメリカの居ぬ間に「バイオエコノミー」のリーダーになろうとしています。そこに日本は「石炭火力」を得意になって持って行ったのですから、批難ごうごうになるのは目に見えています。

初めに紹介しました東京大学の五十嵐准教授が心配されているとおり、日本は「バイオエコノミー」の流れに周回おくれ(それ以上か?)、そのうち日本から世界への輸出に影響が出ることにでもなれば、日本経済はどうなるのでしょうか。

参考資料

1)五十嵐圭日子、バイオサイエンスとインダストリー、75(4),344、2017、JBA「バイオエコノミーによるゲームチェンジを私達はどう受けるか」

2)https://ec.europa.eu/research/bioeconomy/pdf/eu_bioecnomoy_apartment_katalog.pdf