Categories: 製品技術紹介

付加価値を付けて売価を上げる~突破口となった独自の加飾技術~

服部健夫

株式会社服部樹脂

岐阜県山県市赤尾75

1.はじめに

本報はプラスチック成形加工を家業とする2代目経営者が、厳しい経営環境の中で既存の設備を生かして、簡単なアイデアで付加価値の高い商品開発を行い、その商品を販売する為の新規事業を立ち上げてから、市場に流通させ大ヒット商品にまでに育てたプロセスを実話で綴ったストーリーである。

同業者や同じような二代目経営者や経営環境で将来に不安を感じている仲間達に何かのヒントやきっかけになれば幸いである。

2.プラスチック業界の問題点

服部樹脂はプラスチック製の生活日用品を企画 製造 販売を行うメーカーである。創業48年、一貫してプラスチックのみを扱う事業を行ってきた。従業員数は20名でその内訳は正社員10名 パート4名 中国人研修生6名である。

社長を引き継いだ当時の事業の課題は、一言で言うと販売不振であった。詳細を述べると、既存製品は安価に大量生産される外国製品との価格競争に晒され、それを背景に大手流通業者のバイヤーは価格引き下げや商品の廃番を通告してくる。

新たに企画する新商品開発もこちらが売りたい価格と顧客側が買いたい価格には大きな開きがあり、結局は当方が先方の希望価格に合わせる為に、新商品であっても利益率は低い。収益性の低い経営を続ける事で、商品開発や設備投資を積極的に行う意欲を失い更に経営は苦しくなるという悪循環であった。

3.弱者の戦略

当時の私は現状からの脱却は経営者の能力を高める事しかないと判断して、業界団体の会合や若手経営者が集まる会に所属して頻繁に勉強会や視察 講演会 セミナーなどに出席していた。そこで学んだ知識や手法を社内で実践していけば現状が少しづつ改善していくと信じてガムシャラに忙しくしていた。

そして人脈と知識は増えたが、会社の業績は変化しなかった。何かが間違っていると感じていたが、周りの2代目経営者達の会社も似たような状況だったのであまり危機感を感じなかった。会社が一向に良くならないのはリーマンショックや原油価格高騰などの社会環境が悪いから仕方ないと思っていた。

しかし、自分なりに考えて今の学び方では良くならないと思い、組合や業界団体などの付合いは一切やめて、世の中で結果を出した経営者の書籍を徹底的に読みあさっていった。その時に、「弱者の戦略」という概念を知った。

当時の自社製品の分析をしていた時に、一番売れている商品に疑問を感じたのがきっかけである。

当時の売上1位の商品はなんと、ハエ叩きだったのだ。現在は衛生環境も良くなり一般家庭でハエ叩きを使う事は極端に無くなったと感じていたので、なぜこの商品が売れるのか不思議に思い徹底的に聞き込んでリサーチをかけた。

その結果を元に私がたてた仮説は誰も使わないと思われるハエ叩きは作っても売れないので誰も作らない、そうなると極端に少ないハエ叩きの需要は当社商品が独占するという構図である。

ハエ叩きは年間30万本売れていた。

それ以降の私は、すき間産業 ニッチ市場を徹底的に調べて攻めるようになった。

4.何を作れば売れるか

戦略は固まりまった。

後は強い商品を作るだけであった。既にニーズがあり売れている商品は、零細企業が狙うにはハードルが高いと考えた。

自社よりも経営資源が豊富な企業と戦う事は避ける事は大前提であるが、逃げてばかりでは何も出来ないと思い、「今ある設備で生産可能で後加工が一切ない商品でも高く売れる為には何が必要であるか」を考えた。

そこが重要な点である。当社の自社工場は最低限の設備しか無かった。すなわち、射出成形機と取出機がメインで、他は粉砕機とタンブラー程度である。温調機もなかったので協力外注先よりも設備が乏しい環境であった。

そこで、成形品のままで単純な商品構造で付加価値を高める方法を徹底的に研究した。

5.加飾加工で付加価値を上げる

当時の成形品を1ランクグレードアップさせる手っ取り早い方法はシボ加工であった。製品意匠部に既成のシボサンプルから選んだシボを反転させることで商品の印象はガラリと変わり、高級感が増し商品にアクセントをつけるのには最も安いコストでできる最良の方法であった。ただし、目新しい方法では無かった。既に市場に流通している商品にはシボ加工がしてあるものが氾濫していた。

そこで思いついたのは「本物の陶器のような商品」をプラスチックで作れば喜ばれるはずだという考えであった。既存のシボサンプルの中に完成度の高いものは無かった。

そこで思い切って自社でシボ目の開発を行う事にした。地元、岐阜県の多治見で著名な陶芸家に本物の陶器で製品サンプルを作ってもらいそれをプラスチックで複製したような商品を完成させた。完成品を見た瞬間に大ヒット間違いないと手ごたえを感じた。具体的な技術的手法をここに記述することができないことをお許しいただきたい。

6.いい商品が売れるとは限らない

出来上がった商品を大々的に販促する為、業界最大の展示会に出展した。そこでの反響は素晴らしく私はスタッフと共に喜びを共有した。展示会後、新規の取引を希望する業者から引き合いが多数あると期待して待ったが、問い合わせは無かった。

後でわかったことであるがが、展示会来場者は1零細企業の1商品を覚えてはいない。展示会終了後には忘れてしまうのが普通である。弊社はそれ以降もヒット商品を多数開発したが、良い商品開発ができても商品が売れるまでの道のりを山の頂上に例えるのであればそれは2合目だと考えている。残りの8合は販促である。

多くの企業が展示会出展をゴールと捉えているのでその後が続かない。エネルギーもお金も続かない。私はその時から販促(マーケティング)を学び、売る事が経営者の一番の仕事だと考えるようになった。

7.おわりに

私がこの経験から学び、確信した考えは以下の通りである。

(1)零細企業はニッチ市場で勝負して、売上規模よりも利益率で事業を行っていくこと。

(2)付加価値を付けた商品開発を行うこと。

(3)事業規模が大きく経営資源の豊富な競合相手と競わないこと。

(4)零細企業の経営者は販促(マーケティング)を絶えず勉強すること。

plastics-japan

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