展示会レポート 第4回関西高機能プラスチック展・第4回関西高機能フィルム展

秋元英郎

秋元技術士事務所

千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデンCB棟3F MBP

1.はじめに

標記の展示会は、10月5~7日にインテックス大阪にて、関西ものづくりワールドに併設されて開催された関西高機能素材ワールドの一部として開催された。主催者発表の機能性素材ワールドとしての来場者数は3日間で約12,000人であり、ものづくりワールド(3日間で約35,000人)に登録した人も一部流れていると考えるとまずまずの入りではないかと思われる。また、炭素繊維やセルロースナノファイバーに関するセミナーも開催され、盛況であった。本レポートでは、樹脂材料を中心に目についたものを紹介する。

 2.樹脂材料

2-1 ポリオレフィンの高機能化

ポリオレフィン系の材料に関する出展がいくつか見られた。添加剤も含めていずれも高機能化に関するものであった。

シャチハタは朱肉やスタンプ等で知られているが、今回の出展はポリオレフィン用の添加剤やポリオレフィン系コンパウンドであった。ポリエチレン強化マスターバッチ(EB-04R)は1~3%の添加でポリエチレンの結晶状態を変化させて強度アップして薄肉化を可能にする。LLDPE結晶化促進マスターバッチ(AF-03)は3%程度の添加で結晶化度を2%強高めることができ、フィルムの薄肉化を可能にする。

フライアッシュPP複合材料(SF-P21A)は石炭火力発電所から出るフライアッシュをPPと複合化したものである。フライアッシュは球に近い形状で、添加しても流動性を阻害しにくい増量材として働く。写真1に展示されていたフライアッシュ及びフライアッシュPP複合材料の成形品を示す。

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写真1 シャチハタのブースに展示されていたフライアッシュPP複合材料の成形品

中央化成品は長繊維強化ペレット(炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン)とそれを使った成形品を展示していた。従来は樹脂メーカーへOEMとして供給していたが、自社製品としての販売を始めている。写真2に展示されていた長繊維強化ペレット(センタフィル)と成形品を示す。

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写真2 中央化成品ブースに展示されていた長繊維強化ペレットと成形品

同社のブースには電磁波シールド塗料の紹介コーナーもあり、塗装品が展示されていた。写真3に展示パネルと塗装品を示す。

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写真3 中央化成品ブースに展示されていた電磁波シールド塗料の説明パネルと塗装品

住友化学は、抗菌性プラスチック(開発品)を展示していた。通常の抗菌性プラスチックは抗菌剤を混ぜ込むが、この開発品は抗菌性モノマー成分をポリオレフィンに共重合しているそうである(詳細不明)。図1に配布資料から抜き出した特徴の記述を示す。その他に、樹脂蓄熱材料を展示していた。これは、現在25℃、35℃、50℃と3種類の放熱温度のタイプを用意している。また、ペレットで供給されるために種々の成形方法に対応可能である。図2に会場で配布されていた樹脂蓄熱性材料のパンフレットの一部を示す。

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図1 住友化学ブースで配布されていた抗菌性プラスチックの説明パンフレット(抜粋)

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図2 住友化学ブースで配布されていた樹脂蓄熱材料に関する説明パンフレットの抜粋

日本ポリプロはポリプロピレン専業メーカーであるが、新しいグレードや新しいアプリケーションに関して積極的な展示であった。WAYMAXは長鎖分岐型の高溶融張力PPであり、押出発泡性、熱成形性、フィルムの成形性に優れる。また、今回初めて射出発泡用途への提案があった。すなわち、WAYMAXを少量添加することでコアバック発泡特性が大きく改善される。

写真4は通常のPPとWAYMAXの真空成形品を比較したものであり、WAYMAXの方が胴体部分の肉厚が厚く残っている。写真5の左は大型の真空成形品であり、深い製品にも対応できることを示している。写真5の右は真空成形品の表面品質を高めるために多層化したシートを用いた例である。

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写真4 通常PPとWAYMAXの真空成形性の比較

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写真5 左は大型真空成形品、右は多層シートによる高光沢品

写真6にWAYMAXの射出発泡用途に関する展示パネルと成形品を示す。射出発泡用途に関しては初公開である。WAYMAXを射出発泡用PPに添加すると溶融張力が向上するため、流動末端での気泡の割れが抑えられて製品外観が向上し、コアバックの際には最も温度が高い板厚中心部分でも破泡が起こりにくくなる(写真6の右下)。

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写真6 WAYMAXの射出発泡用途に関する展示パネル(左)と発泡成形品サンプル(右上、右下)

2-2 アクリル系材料・透明材料

三菱ガス化学は、ポリエステル系の新規耐熱透明材料を展示していた。COPに似た屈折率で、Tgが173℃の耐熱グレードもあるとのこと。共重合によって物性の調整が可能であり、射出成形、押出成形が可能である。サンプルを写真7に示す。また、特殊アクリル樹脂Optimasを展示していた。アクリル樹脂としては耐熱性があり、エージングによる着色がCOPに比べて圧倒的に小さい。図3に配布資料に記載されていたOptimasの耐紫外線特性の図を示す。

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写真7 三菱ガス化学ブースに展示されていた新規耐熱透明材料の成形品サンプル

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図3 三菱ガス化学ブースで配布されていた特殊アクリル樹脂Optimasの資料から抜粋した耐紫外線特性の図

新日本理化は、新規な脂環式メタクリレート(図4)と低Tg低誘電率メタクリレート(図5)を展示していた。脂環式メタクリレートは吸水率が小さく、変色しにくい特長がある。低Tgタイプは、アルキルの側鎖が長くTgが非常に低いため、共重合モノマーとしても期待される。

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図4 新日本理化ブースで紹介されていた新規な脂環式メタクリレート(紹介資料より抜粋)

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図5 新日本理化ブースで紹介されていた低Tg 誘電率メタクリレート(紹介資料より抜粋)

2-3 エンプラ系

ユニチカは高耐熱性ポリアミドXecoT(ポリアミド10T)を展示していた。これは、ポリアミドの中では最高の融点(315℃)、高結晶性、低吸水性、耐薬品性を特長とするとともに原料の50%が植物由来である。写真8にXecoTの製品サンプルを示す。

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写真8 ユニチカのブースに展示されていた耐熱ポリアミドXecoTの成形品サンプル

他にポリ乳酸製の3Dプリンター用フィラメントも展示されていた。ポリ乳酸(PLA)は造形後の成形収縮が小さいため、3Dプリンター用フィラメントとしては代表的な素材として市場に受け入れられている。特にユニチカ製のフィラメントは他社が無延伸であるのに対し延伸結晶化しているため、特に造形品の反りが小さい。また、造形後の研磨に対する特性も改良している。写真9に3Dプリンターによる造形サンプルを示す。

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写真9 ユニチカのブースで展示されていたポリ乳酸フィラメントで造形されたサンプル

ポリプラスチックスは、低誘電率LCP(液晶ポリマー)、金属密着性を改良したPPS, PBT、異種樹脂接合技術であるAKI-Lock等を展示していた。図6にAKI-Lockの紹介資料から抜粋した図(写真と表)を示す。

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図6 ポリプラスチックスのブースで配布されていた異種樹脂接合技術の紹介資料からの抜粋

2-4 その他材料

日立造船はトウチュウを原料にしたトランスポリイソプレン(トウチュウエラストマー)を展示していた。図7上に示すように形状記憶特性があり、加温して変形させた後に急冷すると変形したままであるが、さらに加温すると元の形状に戻る。トウチュウエラストマーはポリ乳酸の改質材としても有効で、耐衝撃性が向上する。植物由来のポリ乳酸に植物由来の改質材が使えるのでオール植物由来で材料設計が可能になる(図7下)。

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図7 日立造船ブースで配布されていたトウチュウエラストマーの紹介資料より抜粋した図

上:トウチュウエラストマーの形状記憶特性、下:ポリ乳酸の改質効果

モリマシナリーはセルロースナノファイバーを展示していた。特に、疎水化してパウダーとして供給可能とのことで、川下でブレンドする際のハンドリング性が向上すると期待される。写真10にはブースの展示パネル、写真11には展示サンプルの写真を示す。

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写真10 モリマシナリーのブースに掲示されていたセルロースナノファイバーの説明パネル

左:木粉ベースとパルプベースの拡大写真、右:疎水化

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写真11 モリマシナリーのブースに展示されていたセルロースナノファイバーとそれを使った成形品

3.フィルム

カタニ産業は、トレンドカラーフォイル(写真12)、DPマテリアル(デジタル印刷マテリアル)(写真13)、テクスチャーフォイル(写真14)等を展示していた。

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写真12 カタニ産業ブースに展示されていたトレンドカラーフォイル

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写真13 カタニ産業ブースに展示されていたDP(デジタル印刷)マテリアル

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写真14 カタニ産業ブースに展示されていたテクスチャーフォイル

帝人は成形性を改良したPETフィルムを展示していた。世界的に見ると加飾フィルム分野でPETフィルムが使われるケースは多くないが、日本には優れたPETフィルムメーカーが揃っておりそれぞれが成形性に優れたPETフィルムを上市している。図8に帝人のPETフィルム(テフレックスPET)の延伸特性を示す。非常に低応力で大きく伸びることがわかる。このフィルムは蒸着・着色して加飾フィルムとして、また、飲料缶(TULK缶)の内面保護膜として可能性がある。写真15に蒸着・着色したフィルムを用いた加飾成形品を示す。

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図8 帝人ブースで配布された資料から抜粋したテフレックスPETの延伸特性

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写真15 帝人ブースに展示されていたテフレックスPETを用いた加飾成形品

五洋紙工は微細形状の機能性フィルム・シートを多く展示していた。例えば、プリズムシート、光拡散フィルム、意匠性加飾フィルム(図9 テクスチャーを付与する)等である。また、特殊な材料のフィルム・シートも展示していた。例えば、PPSフィルム、PENフィルム、高耐熱PCフィルム、シンジオタクティックPSフィルム等である。

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図9 五洋紙工ブースで配布していた資料から抜粋したデザインシートの説明部分

4.その他

菱光社のブースでは、加美電子工業の超臨界塗装技術による三次元ハードコート(写真16)、ケンモールドによるベント部品エコベント(写真17)、㈱フォトニックラティスによる歪み計測装置(写真18)等が展示されていた。

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写真16 菱光社ブースに展示されていた三次元ハードコート製品

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写真17 菱光社ブースに展示されていたケンモールドのエコベント

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写真18 菱光社ブースに展示されていた㈱フォトニックラティスの歪み計測装置

5.おわりに

本展示会は4月に東京ビッグサイトで行われた高機能プラスチック展の関西版であるが、出展社は関西に限らない。昨年のレポートと見比べると、ダイセルポリマー、カネカ、宇部興産、アロン化成等が出展していなかった。一方で日本ポリプロのように本邦初公開の技術を本展示会で披露している例もある。